『キッド』 木内 一裕 本 読書メーター

キッド (講談社文庫)

キッド (講談社文庫)

 

 「まったく敵わねぇやあの野郎には‥」とクールでプロフェッショナルな敵役がニヤリと笑いながら呟く様に、最高にタフで飄々とした軽快な主人公の活躍が楽しい。リアルでシリアスな重い物語ではなく、軽妙なエンタメ噺として、ワクワクする時間を愉しめた。主人公の麒一、ヒロインのドド子(圭子)や、敵役の山田ジローのキャラクターが魅力的で最後まで頁を捲る手を止めさせない。逆境になればなるほど、軽口を叩き最後まで諦めない、一見軽薄そうに見えながら柳のような強さを持つ男って、やっぱりハードボイルドで最高に格好良いや。楽しかった。

『機巧のイヴ: 新世界覚醒篇』 乾 緑郎 本 読書メーター

機巧のイヴ: 新世界覚醒篇 (新潮文庫)

機巧のイヴ: 新世界覚醒篇 (新潮文庫)

 

 

日の本スチームパンクの世界観が、独特の魅力だった前作と、つい比較してしまい独自性が薄れた様に感じるが、それでも伊武の美しさとちょっと天然な魅力は変わらず、読み終えれば伊武の世界だった。覚醒篇とある様に、これから広がっていくだろう物語の展開が楽しみ。鯨さんがどうなるのか、天帝と伊武がどう対立していくのか。 それにしても、巨大観覧車の登場にもしかしたらと思ったが、まさかの映画『1945』で来たか!!スペクタクルだよね。それだけでも楽しかった。

『キッド』 木内 一裕 本 読書メーター

キッド (講談社文庫)

キッド (講談社文庫)

 

 

「まったく敵わねぇやあの野郎には‥」とクールでプロフェッショナルな敵役がニヤリと笑いながら呟く様に、最高にタフで飄々とした軽快な主人公の活躍が楽しい。リアルでシリアスな重い物語ではなく、軽妙なエンタメ噺として、ワクワクする時間を愉しめた。主人公の麒一、ヒロインのドド子(圭子)や、敵役の山田ジローのキャラクターが魅力的で最後まで頁を捲る手を止めさせない。逆境になればなるほど、軽口を叩き最後まで諦めない、一見軽薄そうに見えながら柳のような強さを持つ男って、やっぱりハードボイルドで最高に格好良いや。楽しかった。

『臣女』 吉村 萬壱 本 読書メーター

臣女 (徳間文庫)

臣女 (徳間文庫)

 

 全うな愛の物語だ。キラキラして綺麗で何の濁りもない「愛」なんて、思い込みと薄っぺらい常識に囚われた薄ら寒い幻想だって事を改めて突きつけてくる。臭い、下品、汚い。当たり前だ、介護なんだから。巨大化と痴呆の何が違うのか。追い詰められた状況の理由を自分自身に求めざるを得ない主人公の真摯さ。性愛に逃げてしまう弱さ。濁りきって混乱しきった心情の先に形作られていく感情は、愛としか呼べない。「純愛」よりこの愛を私は心の底から信じたいし求めたい。例えそれが地に落ちた愚劣なものであっても。交じり合う二人は、何よりも美しい。

『1ミリの後悔もない、はずがない』 一木 けい 本 読書メーター

1ミリの後悔もない、はずがない

1ミリの後悔もない、はずがない

 

 少女や女性にはどうやってもなれないので、彼女たちの繊細さや鈍感さ、柔らかく痛い所を芯までは共有はできないけれど、愛しい存在として想像し想いを巡らし共振する事はできる。できると思っている。どんなに精一杯、その時できる限りの事をしたとしても、失ってしまっ事へ1ミリの後悔も残さない事なんてない。だからこそ、勇気をもって踏み出していく由井の姿と最後の手紙に共感するし、桐原の電車の色当てゲームの提案に胸が熱くなる。逆に、加奈子の生き方には哀しみを感じるが、それは私を写す鏡でもある。必死に生きる強さが頼もしく切ない。

『破滅の王』 上田 早夕里 本 読書メーター

破滅の王

破滅の王

 

 科学や成果物そのものは善でも悪でもない。どう扱うかを決める人間が、意味を産むだけだ。科学者は倫理だけではなく、人としての心情や想いまでも問われる。戦時下と言う特殊な時間にだけでなく、今ここでも常に突き付けられている。程度の差こそあれそれは我々にも突き付けられている刃だ。その行いは、真摯に物事に向き合った結果なのか、「常識」に阿っただけではないのか‥。宮本や灰塚に共感できるのは、そうした問いへの夫々の応えか真摯な物だからだ。同じ様に真須木の想いを否定しきれないのは、私の中に共鳴する絶望的な諦観があるからだ。

『未必のマクベス 』 早瀬 耕 本 読書メーター

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)

 

 心に刻み込まれた浅い夢のような恋心は、消えることがない。消え去らない、消え去らしたくない想いを抱いた一人の男、男の子の初恋の物語に涙した。走り去っていく後ろ姿をいつまでも眺め続けていたのは、主人公なのか私なのか。放課後の校庭を走る君をいつまでも眺めていた私には区別がつかなくなる。遂げられないかららこその初恋の物語なのだから、悲劇にしかならないにしても、物語が終わる前に、互いの想いに気づけた事、言葉にできた事は幸せだ。彼の想いと行動が、燠火のように私の胸に残るものを揺さぶって、切なくて甘い涙が流れた。