2008-07-21から1日間の記事一覧

『水霊 ミズチ』 田中啓文

『蠅の王』の圧倒的な存在感に魅せられて、前作を読んでみた。悪趣味と居心地の悪さや、生理的な気持ち悪さは同じように存在していて、作者の人の悪さを楽しめた。『蠅〜』の生理的気持ち悪さは薄いものの、その分の人間の薄気味悪さはこの作品の方が上だ。…

『骸骨乗組員』 スティーブン・キング

実際には、映画を先に観て、その後、慌てて購入した。 映画の凄さを改めて実感できた。まあそれでは本末転倒だけれど、小説は小説で、十分に堪能できる傑作だと思う。映画とは違うエンディングが、小説的なやるせなさを醸し出す。文字をベースにした想像力が…

『調停者の鉤爪 新しい太陽の書2』 ジーン・ウルフ

4巻シリーズの2巻目。ファンタジーの典型のような世界の影に見え隠れする多重に設定された世界の容貌が、物語を深く広くしてくれる。薄暗い世界の中に展開される多彩なイマジネーションの創造物が、最終的にどのような形を結んでくれるか、期待は高まる。 処…

『タイアップの歌謡史』 速水健朗

文章そのものは、淡々と戦前から2006年あたりまでの、映画、CM、TV番組などと歌謡曲とのタイアップの歴史が紹介されるだけだ。しかし、ここに書かれたタイアップの歴史は、今までの音楽への意識を変えさせるくらいのインパクトも持つ。仕事柄、タイアップに…

『マネーロード』 二郎遊真

第39回メフィスト賞受賞作。金を愛し、金に愛された男の放浪と再生の物語。金と言う生々しい欲望の対象を、不思議な体温で記した作品。傑作とまでは行かないが、一読の価値はあり。欲望の肯定や否定と言う視点ではなく、金が作り上げる人の悲喜劇を、アタマ…

「ミスト」

もう、文句無く傑作。この救いの無い世界は、最高だ。公開終わってから感想書くのもあれだけど、ぜひ観てくれ! ドキュメンタリーチームが撮影したと言う、ハンディカメラを活用した画が、作る緊張感。多種多様な人たちが、特殊な緊張状態の中で形成していく…

「狂気の海」

自主映画だからね。ローバジェットだからね。本当はそうした言い訳は許されないと思う。 この状況の中では、かなりの問題作だと思う。 製作への志と、描かずにはいられない高橋氏の思いは良くわかる。憲法9条のスーパーは、どうしたって必要だったろう。左右…

「ナショナルアンセム」

つまんなかった。決定的に演出力と、観客への理解が不足している。友達や優しい観客なら喜んでくれるだろう。誰も分かりやすい物語や、説明をしろとは言わない。説明されない物語や、状況を映画にすることで、恐怖や感情を刺激して、思考を震えさせたいのだ…

「アフタースクール」

良くできた脚本だと思う。どんでん返した後、冒頭からの意味ががらっと変わってしまう面白さも堪能できたと思う。 が、どうにもすとんと納得できなかったのも事実だ。騙された〜と心地よく映画の快感に浸れなかった。 最初から騙しがあるだろうと思いながら…

 「崖の上のポニョ」

凄いものを観た。正直な感想だ。 色彩とイマジネーションの奔流に、冒頭から終幕まで圧倒され続ける。 物語は、シンプルなものだ。メッセージや思いを投げかけるものではなく、意識的に贅肉を排除したボーイ・ミーツ・ガールのハッピーエンディングだ。 現代…