『姉飼』

第10回日本ホラー小説大賞 大賞受賞作
不気味さが面白い。SM的加虐趣味が底音として流れ、いかがわしくて妖しい耽美の世界が構築されている。姉を飼う、この一点の設定だけで素晴らしい作品だ。
渋谷だの恵比寿だの白金だのの変な流用が若干鼻につくが、寓話的な香りを幽かに残そうとした意図は充分にくめる。でも作者の書きたかったのは、間違いなく寓話ではない。耽美的で加虐的な世界へ惹かれてしまう人間の因果の深さだ。嫌な物を見せられたそう感じるだけでこの作品は新しいホラーとして価値がある。その上で言葉にできない隠微な魅力を醸し出している。小説としても完璧だ。
ホラー大賞の審査員の基準が、あいかわらず分からない。バトルロワイヤルを品性下劣と言うわりに、この品性下劣で悪趣味な作品を評価する。まあバトルロワイヤルは文章やらの小説としてのレベルが低かったので、落選するのはしょうがいないにしても、品性や嫌悪感をホラー小説落選の基準にしているような言説を口にしてはいけないと思う。
なにはさておき、この作品はお薦めだ。気持ち悪くなってくれ。