『誰か』 宮部みゆき

面白い。今年は後半傑作の多い年だ。社会系ミステリーとは毛色の違う、ネオハードボイルドものだ。リューインのサムスン・シリーズの日本版。こういうのを待っていた。って言うかこういうのを書きたいと思っていた。小さな日常の事件。解明されていく現代の家族の悲劇。探偵役はプロではなく、普通の男。柔らかい物腰と、軽口あふれるユーモア、家族思いで優しくて、ちゃんと社会との折り合いもつけて社会人としての容量の良さも持っている、それでも心の芯は一本硬く通っていて、いざと言う時には決して折れる事がない。
事件にかかわる当事者と共に歩ながら悩み、傷つきながら飄々とした優しさと人としての誇りの厳しさを捨てない。
こう書いているだけでも魅力的だ。
やられたよ、宮部みゆき。これがアベレージになってしまった日本のこのカテゴリーに、チャレンジするのがまた難しくなった。それでも逆にやる気も増すけどね。