『竜とわれらの時代』

川端裕人の作品。サントリーミステリー大賞受賞の『夏のロケット』から始まり、『リスクテイカー』『ニコチアナ』『The S.O.U.P.』へと、一作ごとに取り扱い題材を大きく変えてきた作者が、恐竜を題材にして書ききった小説だ。
最新の恐竜研究の考えをぞんぶんに盛り込んでいるらしいが、それらについての詳細はよく分からない。それでも充分以上に楽しめる恐竜小説だ。子供の頃から恐竜の遺跡や、復元模型を見る度にわくわくした感覚を思いっきり楽しめる。傑作だ。
ミステリーやSFを読む悦びをを存分に満たしてくれる。
あれよあれよと展開されていくストーリー、恐竜に関する新しい説、ページを捲る手を止める事ができない。
『ジェラシック・パーク』もこの作品の前では霞んでしまう。しょせんアメリカ人の恐竜小説は、アクション映画でしかない。
その上、この作品の中で提示される「恐竜」=「アメリカ」と言う視点は、ユニークだ。細かな論は横に置くとしても、「恐竜」「ロケット」と言う事象が「アメリカ文化」のコアであると論じ、アメリカの文物・カルチャーが世界を席巻してく事こそがアメリカだと言う考えには、考えさせられる。それに対して、イスラム原理主義と日本の古来の土着宗教を絡める事で、多角的に人のより思考を深くしている。
話そのものが魅力的な物であると同時に、底に流れるテーマは深く、多層に楽しめる小説だ。
何よりも恐竜を発掘する、ひとつの化石から拡がっていく古代への思いと言うメインテーマが充分に魅力的で、読んでいて楽しい。男の子心をくすぐりまくりだ。
こういう本がどうしてなかなか話題にならないのか、不思議だ。「文学」で現代の自我や現代日本文学や風俗や倫理を扱う事や、話題にする事も大切だけれど、読書の悦びを満たしてくれる作品を大きく薦めていく事、みんなで共有する事をもっと大切にして欲しい。
読め。傑作だ。
■単行本 竜とわれらの時代