『幻世の祈り―家族狩り』 天童荒太


天童荒太の作品は重く辛い。それでも作品の背後に幽かに存在する希望、作者の怒りと祈りを感じる事で、読後何かが確かに伝わってくる。
永遠の仔』よりも『家族狩り』の方が好きだ。より自分にリアルな家族を正面から扱っているからだ。
その『家族狩り』から10年。日本の社会は何も変わっていない。現実にある問題や酷さを隠して表向き普通であるかのような顔をしている分だけ、より酷い状態になっているとも言えるだろう。
家族とは、つきつめれば共同の幻想に基づいた小さな社会だ。病んだ日本社会にある小さな社会同時に病んでしまう脆い物だ。だからこそ自分が造る家族だけは、理想的な幸せな物にしようと思う。しかしその思いこそが逆に家族をいびつな物にしてしまう。
俺はちゃんと家族を作り、子供を愛する事ができるだろうか?
子供を愛する事、こんな社会に存在させてしまう事。ちゃんとした答えを見つける事ができない。だからまだ子供を持とうとは思えない。どうして簡単に子供を欲しいと思うか、正直理解がちゃんとできない。もちろん子供を持った友人逹の家庭を羨ましいとも感じる。

作者が真摯に現実に向き合い単純な文庫化ではなく、今に合わせた形で新たに作品を作り上げた事は、素直に嬉しい。
内容も期待を裏切らない、正直な作品だ。読んでいる間、家族、普通である事、子供と親など、感じる事が多く苦しいほどになる
ただ、この作品を5冊に分けた事は果たして成功だったのだろうかとも思う。
作者が投げかける逃げては行けない問題が、分冊される事で薄くなってしまう気がするからだ。

重く辛いテーマだからこそ、ずしりとくる一冊を通して共有したい思う。
こんな薄い一冊でけで、中途半端に待たされるのは残念だ。
幾らになっても良い。きっちりとした一冊で読み通したい。
ただ後書きにある、最後の二冊はまだこの先の、読者の反応で書き直す事ができるという言葉は、とりようによっては傲慢にもなるが天童が語ると真摯な姿勢が伝わってくる。

この先どう物語が進んでいくのか?楽しみだと言う言葉は最適ではないだろうが、待ち遠しい。

■新潮文庫 幻世の祈り―家族狩り
■単行本新潮ミステリー倶楽部 『家族狩り』