『第六大陸 1・2』

一部話題になっていた一冊を、『ハイウイング・ストロール』の勢いで読む。一私企業が月面へ有人基地を建設するお話。ジュブナイルってのはこうでなけらば。SFとしてのクオリティも高いのでSF作品として読むのに充分な作品だけれど、あえてジュブナイルと言いたい。宇宙に出て行こうとする人の夢、熱さをこれほどストレートに喜ばせてくれる作品は近年なかった。思索や最新科学の思考を元にした現代SFももちろん面白いが、こういういシンプルに人の思いをベースにしたSFは、いつだって読者を熱くさせてくれる。
リアルに月進出を前提とした、数々の技術開発、調整と挑戦。月進出と言う古いテーマにまっとうから挑んだ、理系・技術者逹の熱い行動と、がんばり。映画『アポロ13』の管制塔の技術者逹に涙した男の子なら、誰もが愉しめる作品だ。こういう本を読むと、理系になれば良かったかなと思う。IT系はつまんないと思うけどね。
小川一水の作品のほとんどは、現代のジュブナイルだ。十代の少年から始まって、少年の心を忘れない大人にまで、純粋に熱く夢を信じて前に進む人達の心を思い出させてくれる。筒井康隆眉村卓光瀬龍が、少年逹に熱い心、SF心に火をつけてくれたように、ライトノベルズのレーベルの中でも、良質なジュブナイルとして、ハートに火を付ける。
男の子魂がくすぶってる男逹よ、読んでくれ。熱い夢を語ろうぜ。どうして俺達はまだ月に行っていないのか。21世紀には、前人未踏のエリアに人間の技術と知識の集結したベースが出来て、いつだって人はそこに行けたはずじゃないか。車は空を飛び、月にも簡単に遊びにいける。子供の夢を、経済的効率でつぶしてしまうような未来は、未来じゃない。凄くて素敵な未来を取り戻せ!
■(Amazon)文庫本 ハヤカワ文庫JA 『第六大陸〈1〉』 『第六大陸〈2〉』