『不自由な心』

不倫がいけないなんて言うほど、頭が固いわけじゃない。経験が無いわけでもない。恋愛が一度限りで永久に継続できるものでも、かといって続ける事ができないものでもない事も知っている。大切な人を永く愛し続けようとしているし、同時に複数の女性を好きになってしまうような恋愛過多なタイプだと自覚もしている。
でも、いやだからこそ、この小説の男逹や恋愛には、まるで共感できない。共感どころか嫌悪を感じてしまう。この短編集に収められた男逹は、ほとんど俺と同世代で、家庭を持ち、同時に不倫をしている。彼等の女性感、生活、仕事へのスタンスは気持ち悪い。この気持ち悪さはなんだろう?
当たり前のように語られる心情は嫌悪の対象でしかない。ここにある物語に救いや希望を見つける事ができる男とはどんな奴なんだろう?それすらも想像つかない。いや安易に想像つくな。そんな奴らを俺は絶対に受けいられない。どんな恋愛観を持とうが、誰もそれを否定できないし、王道なんてあるはずないが、妻として迎えた女性がいながら、それでも他の女性を愛してしまった男は、全てを受け入れてなお両方の女性をできるかぎり幸せにし続けるために、全てをなげうって生きるべきだと俺は思う。
少なくとも俺は、今までの恋愛ではそうやって来た。甘いとか中途半端とか他人に言われても気にしない。俺は好きになった女性は全て幸せでいてもらいたい。
妻を全力で愛す事ができない男が、同時につき合う女性を愛せるはずがないではないか。一穴主義者ではない俺は、何穴状態でも男はかまわないと思う。そのための嘘は絶対にばれてはいけないが、一生吐き続ければ良いんだ。一生嘘もつけず騙しきれない男は複数の女性を愛して、セックスをしたいなどと思う資格もない。第一そんな性根の男のセックスが気持ちよいわけないじゃないか。
体を求め合うパートナーを持つ事も同じだ。快楽を共有できる相手との関係こそいっそ真摯であるべきだろ?
とりあえず、この本は俺の知っている誰にもお奨めできない。
日常に閉じこめられて、妻にも娘にも相手にされず、窓際で、夢も空想も熱さも忘れ、女性の柔らかさに素直に悦びを感じる事ができず満足させる事もできず、妄想と卑屈な言い訳だけが頭に満ちている普通の男逹にお奨めする。つまらない今日の穴埋めとして。クソだ。