「スチームボーイ」

大友克洋16年ぶりの長編監督作品。
シンプルな冒険活劇だ。企画を始めてしった数年前にはスチームパンクものかと思ったが、王道の少年が主役の活劇アニメだ。
とにかく絵が良く動く。CGの部分とそうでない部分に関係なくこれぞ劇場アニメと言いたくなるような動きだ。
ストーリーはいたってシンプルで、そこに現代のテーマを見つける事は難しい。穿り返せば理屈は付けられるだろうけど、まあその辺りには、監督の気持ちはないだろう。技術と進歩と言うキーワードが大きな役割を担ってはいるが、それも舞台設定が必要としたものだし、後付感は否めない。
少年が活躍し、スペクタクルがあり、崩壊の美があり、絵が動く、それがこの映画の魅力だ。
その魅力に完全にはのれなかった、それが残念だ。
映画AKIRAの時にもそうだったけれど、監督の思いがいつも作品から少し離れた所にあるような気がしてしょうがない。どうしても世界に完全に没入する事ができない。活劇を見る時には致命的だ。
大友がヤングマガジンで『AKIRA』の連載を始めた時には熱狂した。『童夢』の圧倒的な表現を軽く凌駕したあまりに映画的な劇画。アクションの表現がここまでできるのかと、一コマ一コマ目を皿のようにして読んだ。でかいストーリーも興味深かったけれど、大友の一番の魅力は、構図と動きだった。手塚治虫がハリウッド映画の影響を受け日本に根付かせた劇画の正統な後継者にして、手塚世界の破壊者、それが大友だった。光の残像、動きの残像、煽り・俯瞰の効果的な使用で動いていないずの絵の中から動きと音が伝わってきた。
それが長編の映画になるとどうだろう、優等生的な構図、動き、どうしても大友が熱狂してコンテを切っているとは感じられない。最低限のクオリティは優に超えているのは間違いないが、迫ってくる迫力と力が無いんだ。
スチームボーイは、その映画のほとんどがアクションだが、うわーと体が感じるような力や動きが無かった。
スチーム城の崩壊は美しかった。が、もっともっと崩して欲しいんだ。これだけ待たせたんだ、熱狂させて欲しかった。
万博の会場の闘いも、ロンドンの悲劇も、壞れる壊される前のためが一切無いのはどうしたことだ。動きや、崩壊の美をより現すためには、ためが必要なはずだ。崩れていくグラスパビリオンの詳細な表現が無いが為に、戦場と化した会場が崩れていっても、凄みが今ひとつ伝わってこない。
重く巨大な城が崩壊するにしても、あれだけ内部がずたずたになった状態で、動き続けていたんじゃ、ちょっとやそっとじゃ崩れないんじゃないかと思わせるだろ。追いかけられるリンが、自分が逃げる事で内部が壊され、それが崩壊を早めるためにどうやって逃げたら良いのか分からないとか、ちゃんと嘘を吐いて欲しい。内部の70パーセントが壊されても、あのままじゃ城は動き続けるぞ。
と書いてきたが、バルコニーのガラスの崩壊、ロンドンを襲う蒸気と冷気、飛びまくる蒸気機関、見ていて気持ちよいシーンは目白押しだ。
少年として楽しめたのも事実だ。こういう映画はスクリーンで大音量で観るに限る。
ぐちぐち言う連中もいるが、続編の映画やテレビシリーズを楽しみにしたい。