『富士山大噴火』 鯨統一郎

どうして、こうも薄い本を書いてしまったんだろう。デビュー作の『邪馬台国はどこですか?』は、素直に面白かった。歴史の事実と言われている事柄や謎を、独自の論理ですっと切り取って一本の短編ミステリーとして提供させて見せる手腕は、爽快だった。『とんち探偵・一休さん金閣寺に密室』あたりまでは良かったのにね。
それがどうだよ、たった2段組269ページで、東京に直下型地震が起きて、地震の予測システムが開発されて、富士山がだ爆発して、日本が復興する。けっして短い小説ではないけれど、パニック小説としての盛り上がりもためも何もないまま、さらさらと物語が終わってしまう。
登場人物が織りなす、はずの、人の物語も何もありはしない。設定どおりの恋愛があり、親の物語があり、数行だけ仕事をする男の物語がある。どれもただの書き割りだ。
小松左京の『日本沈没』や『復活の日』など骨太のパニック小説の密度に比べたら、お話にならない。火山噴火の物語ならこの数年の傑作『死都日本』がある。あれだって高密度なパニック小説だとは言えないし、登場人物に上質の物語りがあったとは言えないが、それでもこの作品の何倍も力があった。第一火山の噴火に関する気合いと思い入れがまるで違う。
中途半端。