『呪い人形』望月諒子

『神の手』以降のデビュー三部作の最終作。密度の濃さはデビュー作が一番だけれど、この作品でも人の心理の奥にある欲望とどうしようもない物事を書き上げようと言う姿勢は薄まっていない。
作品については三作全てを読んで欲しい。損はしない。
この文庫の最後に納められている解説の一文が、かなり気に入ったのでここに無断で転載する。(作品そのものを完全に解説できている一文だとは、残念ながら思わないけれど)

このごろ、小説に対して人々が求めるものが偏ってきているような気がする。
”一気に読める”こと。そして、”泣ける”こと。
(中略)
しかし、このところの”一気に読める”と言う賛辞は。一昔かふた昔前に低料金が売り物の大衆酒場で流行はじめた宴会芸ージョッキに注がれた口当たりだけは良い安酒を、無闇に胃袋へと流し込む、ただそれだけの下品で騒々しいパフォーマンスと同じような見苦しさを私は感じてしまうのだ。
つまり、酒を味わう感性など必要なく、消費するために必要な口当たりの良さだけが問題にされ、飲み干すことだけが目的で、それを媒介として大勢の人間が一時の盛り上がりだけを楽しむ。安酒といえども食物であり、そこには一定の敬意は払われるべきなのに、そんなことに思いをいたすような雰囲気は皆無である。

その通りだ。
一気に読めりゃ良いのか、泣ければ良いのか。結果が目的にいつのまにかすりかわっていると言う、日本独特の馬鹿な姿がここにもある。