「ロスト・イン・トランスレーション」

面白かった。俺としてはホテル映画と呼びたい。旅先のホテルでのやる事のない退屈とホテルステイを描いた映画は他にない。ほのかな恋心は旅先だけで体験できる浮気心だし、普段と違う感触で進む時間の感じが良く伝わってくる。五つ星の最高級ホテルに泊まっていても、ぽかんと発生した休日の空気は変わらない。その空気が良くて異国に行くって言う事でもあるけれど。
映画では米国人が異邦の大都会異文化東京で過ごす、どこへも行けない何ものでもなくなっている自分の宙ぶらりんな居心地の悪さと寂しさを静かに共有して埋め合うのだけれど、実際にこうした時間を共に過ごす事のできる相手を手に入れる事はめったにない。内に寂しさを抱えたまま習慣も匂いも音も違う街を独りで歩くだけだ。
旅先の状態を、現実の自分に置き換えて、生きる事の気分を表現したかったのだろうし、その意図は充分に伝わってくるけど、実際に救われる事の方が少ない事を隠してはいけないと思う。映画だからこそのファンタジーと割り切る事はできるけれど、旅/人生の寂しさを一瞬埋めてくれるような優しい時間は決して安易は傍に現れたりしない。だからこそ人を求めながら独りで生きるって事だし、それが生活する楽しさって奴だろ。
それにしてもヨハンの普通の体型のなんとも肉感的な事だろう。背も低くバランスの悪いスタイルなのに、リアルにそこにいる素敵な女性としてスクリーンに映し出されているのは見ていて心地良かった。