『青空の卵』 坂木司

ひきこもり探偵とその友人との、ホームズ・ワトソンもの。しかも人が死んだり、物騒な事件が起こるわけではない生活の謎ミステリー。最近多いんだよな、こういう生活の中の謎もの。嫌いじゃないけど、少し食傷気味だ。と思って読んでいたら、ふっとばされた。この作品は、良い。過剰なまでにセンシティブな主人公二人が、人生の陰の部分を潜ませる少し辛い謎を解いていく。その過程で相互に依存しあう事でなんとか世界と接する事ができている自分逹を確認しあい、信頼を深め、少しずつ世界に踏み込み人と繋がって行く。
最後の短編では、探偵役の青年がひきこもる原因の一つになった家族の話が、本来の謎の解明と共に明らかにされ親子の心が触れ合っていく。ナイーブすぎるけれど、ストレートに心に響いてきたよ。朝の通勤電車の中だったけれど、涙が流れてきた。顔が上げられなくて苦労したけど、とても良い心地だった。
子供の頃のストレートで正直で残酷な心情を捨てたくなくて、周囲にどこか違和感を感じながら、今を生きている君、そんな君に読んで貰いたい一冊だ。