『マルドゥック・ヴェロシティ』 冲方丁

前作にも負けない作者の魂を感じる物語。『マルドゥック・スクランブル』の前日譚。一挙に読ませる物語の迫力こそが、この作品のコアだ。
主人公ボイルドの心の変遷が切ない。タフな男の柔い弱さが踏みにじられていく樣は、残酷なまでに美しい。浄化されるために選んだ行為の結果、最後に残る虚無の雫は物語でしか語りえることができないものだと思う。改めて『〜・スクランブル』を読むと、どれだけ計算されているのかと思う程、ピタリとはまっていくし、物語の深さが深くなっていく。続けての再読をお奨めします。
ちなみに009+新スターウォーズ3部作+レオンな雰囲気だってのは、言い得て妙だと思いますが、あくまでも設定の部分だけの話です。
【追記】『〜スクランブル』再読終了。あらためてポーカーシーンの鬼気迫る静かな力に圧倒されると同時に、最後に改めてボイルドの物語になっていることに涙する。そんなひと言残して、先に行ってしまうんだな。彼の最後に残すひと言が、さらに深くなり、満足が深まった。ぜひぜひあわせて読むことをお奨めします。