「ションベンライダー」

相米慎二の初期の名作。20数年前に映画館で観たっきりで、詳細は忘れていたけど、ガキながらに凄かったと言う印象だけが強く残っていた。まことちゃんか、うる星やつらの併映だったと思う。
中学生のガキ3人の、一夏の物語。誘拐された同級生を捜して、東京・横浜・名古屋へ、ガキとはぐれものヤクザが移動する。
オープニングから最後までの2時間のほとんどが、圧倒的な力を持つ「凄い」映画だった。ストーリーだけみたら、完全に破綻している。復讐のために同級生を追いかける筋だけでもよく分からないのに、藤竜也演じるヤクザの行動がまったく理解できない。「変な映画」と当時誰かが言っていたもの頷ける。台詞も良く聞こえないし。洗練された娯楽作品からはほど遠い。今時の泣かせる"感動"映画とは、対局にある映画だ。
この映画の魅力は、そうしたストーリーとは関係ない。相米監督の代名詞のひとつ長回しによる、役者の動きが作り出す画の力こそが、この映画の凄さの源だ。この映画を観た全ての人に強い印象を与える1stシーンの長回し。約7分、フィルムリールぎりぎりの長さのカットは、圧巻だ。決して洗練されたカットじゃない。どちらかというとだらけた構図が続く。しかし、道腹の落ちこぼれヤクザ2人から、学校のプール、盆踊りの準備をしている校庭でのバイクと教師とのいざこざ、校門でのガキの喧嘩、突然乱入する車。まで続くひとつの流れの中で登場人物逹の動き、極端な長さの中で緊張と集中力が生み出す力から目が離せなくなる。後はもう2時間の間、その力を持った画を楽しむしかない。中盤の材木が浮かぶ水の上での追いかけっこのシーン、ラスト近くの保育園の中での銃撃戦から「ふられてバンザイ」をガキ共が踊るシーン、「凄い」としか言えない画が、次から次へと続く。
役者が動く、そのことが映画の快楽になる。物語やCGじゃなく、映画の持つプリミティブな魅力に触れたくなったら、ぜひ思い出して観て欲しい。恋人や家族と楽しむ映画じゃないけど、これも映画だ、と楽しめると思う、きっと。
洗練された物語を楽しむ。最新の技術を使った映像マジックに酔いしれる。女優の美しさに心奪われる。緻密に計算されたストーリーに幻惑される。職人芸の映像を堪能する。映画の楽しみは映画の数だけある。「ションベンライダー」のような独特の魅力を持つ映画に触れ、他にない凄さを堪能するたびに、映画好きで良かったとしみじみ思う。それにしても相米慎二が早くに逝ってしまったことは、本当に残念でしょうがない。

■蛇足
長回しついでで、最近観た中で、これは凄いと言うのが下の動画。町山智浩はてなで紹介されていて、映画秘宝ブギーナイツの記事でも触れられていたキューバ映画の1カットと、ブギーナイツの1カットの比較。「怒りのキューバ」のカットは、これはこれで凄い。ステディカム無しで、このカットを撮るのにどれだけの事が必要か。そしてその事を知らなくても、画から伝わってくる異様なまでの緊張感と迫力は、映画の快楽だ。
相米監督の「ションベンライダー」などのカットが持つプリミティブな力とはまた違った映像の力だ。