『裸者と裸者 上・下』 打海文三

訃報に触れ、前から気になっていた本作をやっと読み、激しく後悔。なんで今まで読まなかったんだろう。
内戦状態にある近未来の日本。三人兄弟を守るため孤児部隊に巻き込まれるようにして軍隊に所属した兄と、父母を早くに亡くした早熟でクレバーで美しい双子の姉妹の物語。混乱の常陸から東京へと流れていく過程で、少年が成長し、少女達が強くなっていく姿と、激しい内戦の戦地で混乱を増していく日本の中で自分達の生き方を築き上げていく姿が激しい共感を生む。心の優しい少年が、優秀で冷酷な戦闘員になって行きながらも性根の優しさを捨てず、非情とセンチが同居した状態の戦士として、醜悪な現実に対峙する様は、ここに俺たちの生き方があるんだと思わせる。倫理を超えて生きる事の本質を隠すことなく追求する美人双子姉妹に大きく影響されながら、力の無いものが腐りきった世界の中で何かを守るには、悪に徹するしかないと決意する立ち姿のなんと力強くナイーブなことか。
メタファや安易な設定に逃げず、現在の日本の現実の中で、自らのコアを殺さずに闘い抜く姿勢を書き抜いた作者の早い死が本当に悔しい。第二部になる『愚者と愚者』も非常に満足な内容だ。(まだ途中だけど)第三部を途中まで書きながらお亡くなりになったとのこと、残念だ。