『ハゲタカ』 上・下 真山仁

なぜ、これを読み逃していた!小説の文章としては荒いし、深くはないけれど、スピーディーで興味深く複雑な素材を、良くここまでエンターテイン読物としてまとめあげた。類型的なキャラクターも、この小説の場合は、はまっていて、その分ファンドや企業買収の世界の片鱗が理解しやすくなっていると思う。主人公を日本人にし、直接的な悪にするでもなく、善人にするでもなく、揺れ動く中庸な立ち位置に設定しているのは、文章力・構成力のなせる偶然の産物か、計算づくなのかは不明だが、単純でもなくわざとらしい複雑さや両義性でもない、グレーな存在感がリアルだった。まあ、出来事やエピソードはシンプルでありがちだけど、この素材が全てを帳消しにして、勢いのある物語にしている。必読ですよ、S氏、K林君。