「ミスト」

もう、文句無く傑作。この救いの無い世界は、最高だ。公開終わってから感想書くのもあれだけど、ぜひ観てくれ!
ドキュメンタリーチームが撮影したと言う、ハンディカメラを活用した画が、作る緊張感。多種多様な人たちが、特殊な緊張状態の中で形成していく政治と行動、誰にも正義が無く、行動の全てが善処にはならない、救いのなさ。
クリーチャー達の、B級臭ささも含めての、登場の仕方も最高だ。
冒頭すぐのスーパーでの人々の、微かに張った緊張感から、霧に囲まれて疑心暗鬼から対立していく様子、ホワイトラッシュの意味の無い自信が産む悲劇、中流の白人と上流の黒人との感情的対立から始まる悲劇、熟考したはずの全うな人の行動が産む悲劇、何をしても悲劇しか生まない。無力な人間たちの様子を描きながら、同時に無力だと気づかない人たちの愚かな様子を、即席の宗教などを使って描いていく。オカルトおばちゃんが、やがてカリスマになり、全うだった白人たちと対立する様子は、笑うに笑えないリアリティを持ってこちらに迫ってくる。
人物を描く演出力の高さと構成の堅実さが、古典的な物語に強い存在感を与えている。大卒の白人とブルーカラーのホワイトラッシュの軸、地元民と都市部の余所者との軸、理性と感情・宗教の軸、多層な軸が細かな演出の積み重ねと大胆な簡略的な演出で、的確に形作られている。観客の得る所々のカタルシスもそうした軸の中での一方的な主人公側からのカタルシスでしかなく、一歩引いた相対的な視点で眺めれば、救いでもなんでも無いことの無力さおやるせなさが残るだけだ。
主人公達の「勇気ある」行動の、結果生まれる最後の展開は、最大級の救いの無さを産む。物語の終盤からこうなるだろうと、誰にでも分かる形で明示されていた悲劇の先に待つ、その先の展開。それらがら徘徊する無限な霧に囲まれた状況の中で浮き彫りにされるのは、結局多様な人間が産む悲劇と、自分自身さえも救いの無い行動しかできない無力さとそれでも行動してしまう愚かさと言う恐怖だ。
映画が終了した後の映画館の、観客達のどんよりとして静寂が、この救いの無さを表している。
今年上半期のナンバー1にしたいほどの、面白さだった。
それから単純な話だげ、後半霧の中にあらわれる、巨大な奴の存在感はどうだ!こんなでかい奴が、映画館のスクリーンに描かれることがあるとは。デカイ!かっこ良すぎる!

原作読んだ後で、一つだけ不満なのは、ちゃんとセックスを描いて無い点だ。死と隣り合わせになった時に発生する
欲望と、その処理を理性で説明しようとする滑稽な愚かさも、ぜひダラボン様には描いて欲しかった。