「ザ・コンサルタント」 なぜ君は、そんなに面倒臭い生活を選ぶんだい

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あらすじ:田舎町でしがない会計士をしている高機能自閉症の主人公クリフの、もう一つの顔は、マフィヤや裏の組織の会計を引き受け100%の命中率を誇る凄腕の殺し屋だった。そんな彼のもとにロボティクス大企業から財務調査依頼が舞い込んだ。

 

ベン・アフレックが良い。自閉症を抱えながら社会と折り合いをつけ、プロとして仕事をしている主人公の、感情のにじみ出ない目が素晴らしい。感情移入や人の気持ちを理解できないながらも、田舎町の老夫婦への生真面目な思いやり。冷静でありながら脅迫神経症的な細部への拘り、小さな事にいつまでも固執してしまう心情、表には強く表せないが肉親や友人への深い愛情、複雑な多様性を持つ主人公を、目の演技やちょっとして呼吸で演じきるベン・アフレックを観ているだけで、良い映画を観たなと満足できる。

 

高機能精神障害と言う難しいテーマを、嫌味にもならず、偽善的にもならず、主人公のありようの要にし、観客に共感を抱かせる造形とストーリーは、製作者の本気の姿勢が伝わって来る。ブロックバスターにするのなら、もっと単純なアンチ・ヒーローの設定で十分なのだから。ヒロインの愛の力で自閉症を乗り越えないのも好感を覚える。そんな安易な展開はいらない。

 

自閉症である事による、家庭の崩壊、父のスパルタな教育、過酷な人生を過ごしたからこその静かな凄み、小さな事にいつまでも固執する生き方、彼が人生をかけて拘っている小さいな事、彼が会計士と殺し屋の二足の草鞋を続ける理由…全てが主人公の高機能自閉症と言う設定に繋がっている。

 

説明の少ないまま、複数の疑問や謎をなげかけながら映画は始まる。今までに観た事のない複雑な多様性を持った数字と殺人の天才の行動を通していつのまにか映画の世界に引き込まれ、最後には全ての謎がパズルのようにピタリと収まっていく。この構成を観ているだけでも十分に気持ち良い。あまりに全てが決まりすぎて、やりすぎじゃないかと思うくらいだ。まさか相手がたのボスが奴だったなんて!て驚きも楽しかった。

 

ラストシーン、最後まで謎のままだったキャクターの正体が誰だかわかった瞬間、少年だったあの瞬間、彼の心に触れた出来事と感情が彼の全てだったのだと理解し、十分に魅力を感じていた主人公クリフの事がさらに好きになる。ヒロインのデイナを守ろうとした理由、彼女に絵をプレゼントした心情が改めて心に響く。

 

派手なアクションもカーチェイスも、キスシーンすらない。だからこそ、この映画はアクション映画でありながら、静かに心に染み込む。他に類をみない魅力的な主人公と出会えた事を嬉しく感じる。