『フリー・ファイヤー』 映画 人は這いつくばってでも生きて行く

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おそらくIRAがらみのアイルランド系ギャング団と南ア出身の武器商人率いる一団が、倉庫の中で銃撃戦する、それだけの映画。

それがやたらと面白い。映画が始まる前に監督からのメッセージで「FBIのたくさんの資料を読んだ結果、人間は銃で撃たれてもちょっとやそっとで死ぬということはない、ということがわかり、今作はそれを基に人間の往生際の悪さを描いた」と告げられる。

まさにその通りなかなか死なない連中が、グダグダと銃撃戦を続ける映画、それが『フリー・ファイヤー』だ。タランティーノの『レザボア・ドッグス』に一見似ているが、あちらがクールな銃撃戦なのに比べ、こちらはグズグズで格好悪いある意味リアルな銃撃戦だ。

 

登場人物全員が、クズで欲まみれの自己中な奴ばかり。

いわゆるプロフェッショナルを気取った男も、沈着冷静な紳士ぜんとした男も、知的で男を手玉に取ってる素敵な私の女も、誰一人感情移入ができる人物がいないという潔の良さ。

冒頭から武器取引開始までのテンションが、ちょっとづつずれていき、やがて一発の銃声が倉庫に響いた瞬間から、後は誰が生き残るのか、この銃撃戦がどうやって終わるのかだけのストーリーになる。この一発のきっかけもなんとも碌でなしなくせに、妙な説得力をもってそりゃ撃つよな、あつ撃っちゃったよこいつと思わせる、そこまでの緊張感の演出が巧みだ。

 

その後の銃撃戦がまたグズグズで、両足で立っている奴が一人もいない。ほぼ全員が地べたに転がっているか、物影で中腰でいる奴も体のどこかに銃弾を受けていて颯爽としていない。

ここまでクールじゃない銃撃戦は見たことがない。

一般的に銃撃アクションといって思い出す銃撃シーンとは真逆の格好悪さだ。これがなんとも痛快だから不思議だ。爽快ガンアクションではないが、会話の愚図さもあわせ監督のメッセージ通りの往生際の悪さが痛快なガンアクションだ。

単純な銃撃戦の合間に想定外の出来事が起こり、最後まで飽きさせない。気がつけばあっという間の90分で、鑑賞後は愚図連中の自業自得のあまりもの馬鹿馬鹿しさに、爽快な気分になれる。

 

監督たち製作陣は、銃撃戦をリアルなものにするために、マインクラフトを使って舞台の立体モデルを作り、10分単位づつで登場人物の位置関係を把握し、銃線や行動に矛盾がないようにストーリーボードを1,000枚以上書いたと言う。この銃撃戦にそこまで細かな計算をしていることに脱帽だ。大嘘つくには、これくらいの綿密さが必要なんだな。

ラストカットで、そりゃそうなるよな残念でしたと思わせるのが、これまた嬉しい爽快さだ。

いやーよくもこんな映画撮ったもんだ。できればスクリーンで観ることをお薦めする。