『ボラード病』 吉村 萬壱 本 読書メーター

ボラード病 (文春文庫)

ボラード病 (文春文庫)

 

不快ではない。薄気味悪いのだ。満面の笑顔のすぐ裏側に、どす黒い本性が滲み出ている瞬間を目にする気色の悪さだ。故郷は美しい。私達は仲間だ。絆。共感。書いているだけでも吐き気を催す催す私には共感できない言葉が溢れているあの日以降の日本の写し鏡だ。完全な健全も理想の知恵もない価値観のカオスが渦巻く現実を、耳障りの良く前向きな善意で覆い被せた社会の有り様の醜悪な不気味さを否応なく突き付けてくる。右も左も呪詛の言葉から逃げる事はできない。ボラード病から日本人は誰一人無縁ではいられない。逃避できない絶望がここにある。

 

追記

いとうせいこうは『ノーライフキング』から好きだしラップも格好良いと思うけど、この解説、とくに後半の今の政治への言及と読みが残念でならない。右だって左だって同じように気持ち悪いのは分かっていて、敢えて右翼化する社会の薄気味悪さと繋げたところが不快だ。 むしろ平和だの市民だのお花畑の「理想」の方が同調圧力と一方的な価値観の矯正を強いるこの世界に近いと個人的には思う。理想を綺麗な言葉で人に広げようとした時点で誰もがボラードの世界の加担者だ。