『弥栄の烏 八咫烏シリーズ6』 阿部 智里 読書メーター

弥栄の烏 八咫烏シリーズ6

弥栄の烏 八咫烏シリーズ6

 

「弥栄」に含まれた意味が壮絶だ。猿と烏と人の物語は、少数民族の闘いと抑圧、吸収と繁栄の物語だ。蝦夷、沖縄、東北などで行われた原住民族と倭人との歴史を振り返ること無く今の繁栄を満喫する日本の私たちへ向けた痛烈な刃だ。大猿の語る幸せと誇り、烏が取った阿りはどちらがよい悪いではないが、私はどうしても猿に共感してしまう。復讐のために冷酷な鬼となった雪哉が口にする正義の言葉は薄ら寒く、そこにある勝利と平穏は血塗られた行為でしかない。愛すべきだった雪哉の正義すら信じられない物とした作者の凄みに幻惑される。