『ユリゴコロ』 沼田 まほかる 本 読書メーター

ユリゴコロ (双葉文庫)

ユリゴコロ (双葉文庫)

 

 恨みで人を殺したいと思った事はない。殺したくなるほど人を愛した事もない。人を殺す事を目的として殺人の妄想をした事は、正直ある。手記の書き手のような自然な欲求ではないが、妄想は自由だ。もちろん一線を越える事はこの先もない。人の心の深淵を覗いた時、底に見えるのは自分の顔だと言う。主人公が囚われていく気分はきっと深淵の顔と血の繋がりを信じたいと言う愛情への希求なのだろう。拠り所を脱した彼女が、その切っ掛けとなった存在のすぐ傍らにい続けた事、そんな彼女を受け入れ愛し続けた男の二つの想いがこの作品の屈折した希望だ