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「ネオン・デーモン」 無機質で低体温な女は好きですか?

映画


 

 
強烈な印象を残す映画だった。
N.Wレフン監督でしか創れない、個性の塊。間違いなく映画の快楽に満ちた作品だ。それも一級品の。
 
東海岸のファッションモデル業界での、裏の世界のドロドロ、みたいなあらすじは、どこかの映画サイトで確認してほしい。
 
この映画は、ストーリーの展開を楽しむものじゃない。
カンヌで絶賛と大ブーイングのを受けたってのも、素直に理解できる。ハリウッド的ストーリーやドラマはないし、人の存在も、メッセージもない。
「ドライブ」「ヴァルハラ・ライジング」の圧倒的な暴力や、「オンリー・ゴッド」のどこかチャーミングな狂気などを期待すると大きく肩透かしをくらう。
こう書くと褒めるところがないようだが、他に代わりがなく、レフン監督の他の作品に勝るとも劣らない魅力に溢れている。
 
この作品で大きく印象に残り、強く心に刻まれるのは、無音と無機質で低体温の狂気のテンションだ。冒頭タイトルバック前、製作会社や配給会社のロゴが登場する時点での無音。この数分だけで俺はもうこの映画にがっしりとハートを掴まれた。なんの画も出ていない時点でピンと張り詰めた無音のテンションに脳が震えた。
その後に続く主人公エマ・フェニングスのカット、カットバックされる男の顔。まばたきすら惜しくなった。メイクの女性が近づくだけで、そこはかとなく性的な欲望が透けて見える緊張感。思い出すだけでも、緊張に触れた気持ち良さが戻ってくる。

最初から最後まで、人間の体温を感じさせない無機質な温度を持ったテンションが続く。
いろいろな楽しみや快楽が映画にはあるが、このテンションに晒され続けるのは、スクリーンに対峙した時にしか味わえない悦びだ。
映画に物語や意味を求める観客には、本当に退屈で、花どころか何もない物語だろう。田舎娘が特異な才能を認められ、成功の道を歩み始めると落ち目手前のモデルの先輩に嫉妬されて…という有りふれたものだから。
 
終盤でいきなりショッキングな展開でやっと物語が動き始める。いかにもレフン映画らしい展開だし、このあたりの画の強さは期待を上回った。そこまでの圧倒的な空気だけでも満足だった上に、追い打ちをかけるエロスとグロテスクに完全にノックアウトだ。
主人公を食べたモデルにカリスマフォトグラファーがどこかであった事がないかと質問し、急遽モデルとして登用する展開、もう一人が耐えきれず狂っていく展開、最後の最後にあれを口にし口元を持ち上げるモデル。
強烈な展開のはずなのに、無機質を貫き通し体温を感じさせない画とテンションが、とてつもない静かな狂気を心に刻み付ける。
エンドロールの安い曲調の主題歌がまた絶妙なバランスで、最後まで震えっぱなしだった。
 
今までの男性的な圧倒的な暴力やセックス、激烈な狂気をデザインされつくした独特の画力でぶつけてきた監督が、女性を主人公に据え今までとは異なる手触りとテンション=無機質で低体温な空気で、その後ろに静かに煮えたぎって存在する狂気と暴力とセックスを、美しい画としてまとめあげた映画、それがこの「ネオン・デーモン」だ。
 
好き嫌いがはっきりわかる映画だし、鑑賞する悦びおあまり人とは共有しづらいものなので、人に薦めにくい作品だが、スクリーンの上に広がる、映画だけでしか味わないぞわぞわするテンションをぜひ一度味わって欲しい。