『キングスマン ゴールデンサークル』 映画 大人の漫画映画と言ってもエロいわけではありません。

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前作の教会でのワンカット(風)のカメラワークを駆使した大殺戮シーンのクールさにノックアウトされてはや数年、待ちに待っていた続編。

007シリーズから始まって、ミッションインポシブルシリーズ、ジェイソンボーンシリーズ、ついでにオースティンパワーズシリーズなどシリーズものや単独作品のスパイ映画が星の数ほど作られてきたが、それらの総決算として登場した前作のキングスマンは、シリアスに走り過ぎた昨今の傾向を尻目に、古き良き時代のショーン・コネリー007を彷彿させる王道のスパイ映画でありながら、スタイリッシュで同時に現代的な映像とスピードでウィットに富んだ笑いを随所に散りばめつつ、過去のスパイたちへのリスペクトに溢れた今最高のスパイ映画だ。

 

続編の今作もその魅力は変わらず、前作の印象的なシーンを再現しつつ、さらに大きな規模の大人の漫画=スパイ映画の王道を観せてくれる。

 

スーツの似合う紳士に成長した主人公エグジーが登場し、あっと言う間にロンドン市内を駆け巡るカーチェイスに展開していくファーストシーンから、キングスマンの世界にハートは鷲掴みされる。

街中360度の大迂回をドリフトだけで駆け抜けるチェイスのすごさ!

もちろんCGを多用しているだろうが、実車を駆使した走りをあえて引いた空撮で見せるクールな姿勢は、そのままこの映画のスタイルを現わしている。

荒唐無稽とリアルな絶妙なバランスこそがキングスマンシリーズの肝だ。

たった10分の間にこんな展開をされたら、残り120分に期待しないわけにはいかなし、最後まで期待は裏切られなかった。

 

ジェイソン・ボーンは肉体を武器にしたこの日常に地続きの新しいリアルをスパイ映画に与えてくれた。

ミッション・インポッシブルは、リアルなスパイ映画への回帰から始まったが、作を重ねるごとにエンターテインメントしてのリアルを追求し、娯楽スパイ映画の世界を追求した。

ダニエル・クレイグの007前3作品の荒唐無稽を極力排したリアルさは、改めてスパイ映画を大人のための映画に復権させた。

この10年、スパイ映画は、これらの名シリーズによって復権し魅力の幅を広げていった。

何よりもダニエル・クレイグの『カジノロワイヤル』『スカイフォール』の影響は大きい。

殴れたら痛い、その単純なリアルはスパイ映画を大人の鑑賞に堪えられるものにした。

ただ、同時にスパイ映画にあったワクワクする魅力、大人の漫画としての魅力は残念ながら後退してしまった。ショーン・コネリー『ドクター・ノー』を観た時の大の大人の男がワクワクした感動は、リアルの影に隠れてしまった。

『スペクター』では、あえてその大人の漫画に挑み、新たな可能性を観せてくれたが、荒唐無稽の魅力とリアルとのバランスはシリアスすぎた。

 

そんな中で、キングスマンシリーズはシリアスには振りきらず、あくまでも王道のスパイ映画を現代に復活させた。

サヴィル・ロウの正統的英国スーツを始めとする伝統的な紳士。

毒薬を仕込んだ万年筆、ライター型手榴弾、水陸両用のロンドンタクシーなどのガジェット。

世界規模の秘密組織と世界制覇を目指すルナティックなボス。

手垢のつきまくった設定ながらも、カメラワークを駆使したスピード感溢れるアクションシーンで新しい小洒落た大人の漫画映画をスクリーンに繰り広げてくれた。

 

さらに『ゴールデンサークル』では、前回登場した様々な設定に加え、キングスマンの従兄弟にあたる米国の組織ステーツマンが登場し、カウボーイやヤンキーに関連したガジェットや登場人物たちによりクールさは何倍にも増している。

もちろん前作の教会シーンでみせたカメラワークを駆使したアクションも、シーン数は増えた上に新たなガジェットも加わりさらに魅力的になっている。

詳しくは書かないが、ラストのダイナーでのワンカットアクションは凄い。

"風"じゃない最初から最後までのワンカットで(もちろん編集でつないでいるだろうけど)、ハイスピードとスローモーションを駆使し天地左右360度動き回るカメラの前で、主人公たちがみせる圧倒的な動きで、過去に類のないクールで残酷で少しユーモラスなシーンに仕上がっている。

このシーンだけでも一見の価値がある。

前作の教会シーンのグロテスクが合わなかった人にはオススメできないけれど。

 

コリン・ファースの紳士っぷりは変わらずだし、マリーンの冷静さも健在だ。王女のアスホールのエッチさもJBの可愛さも変わらずだ。王道の設定は、登場人物も王道だ。安心して楽しめる。

敵役の世界破壊の動機に一理ある点だけは、前作同様王道でない。2作ともに悪党の語る理屈は完全には否定できないものなのがこの映画の屈折した魅力でもある。

無秩序に増え続ける人間の愚弄さや、タバコ/アルコール/砂糖のように中毒性の高い嗜好品と大麻などの麻薬tの恣意的な線引きの無意味さなど、深い理屈を語るが真のテーマと言えるほどの深みはない。その潔さがこのシリーズの魅力でもある。

しかっめつらで深い話を影に隠して語るような姑息な方法ではなく、圧倒的なカメラワークのアクション、スタイリッシュでスノッブなスタイル、グロテスクなカット、男の子心を擽るガジェットなどをあくまでも真面目に、エンターテインメントとしての大人の漫画スパイ映画にまとめあげたのが、この『キングスマン ゴールデンサークル』だ。

荒唐無稽で、最高にクールな2時間をぜひ楽しんで欲しい。

繰り返すになるが、グロテスクなものが苦手人にはお薦めしないけれど。