『薔薇密室 』 皆川 博子 本 読書メーター

薔薇密室 (ハヤカワ文庫 JA ミ)

薔薇密室 (ハヤカワ文庫 JA ミ)

 

 背徳的な狂った研究者、退廃的な美、濃密な薔薇の香り、通底しているのはナチス第三帝国。小説が紡ぐ世界のなんと豊潤な事!薔薇と人体の融合。美しい劣等体として愛でられる奇形児たち。耽美と歪つな偏愛が美しく折り重なり、幻想と史実、倒錯と残虐が彩りを加え、儚くもあり強靭でもある物語を構築している。綺麗事をならべ、無邪気に笑わせたり泣かせたりするのが小説の役割ではないと、満足させてくれる一冊だ。耽美で背徳的な物語の結末は、快楽ともなるような破滅であって欲しかったと願うのは、あまりにも個人的な無い物ねだりだろうか。