『総統の子ら』  皆川 博子 本 読書メーター

総統の子ら

総統の子ら

 

 「正義」「平和」「自由」のために一体どれだけの血が流されたのか。これらの言葉を無邪気に信じる愚かさを私は、心の底から憎み嘲笑う。反する「悪」も含め、この世にそんな絶対的なものは存在しない。そうだと定義し強要する人間がいるだけだ。錦の旗の犠牲の上に立つ人の世は、腐臭に塗れた世界だ。戦争によって露になる人の醜悪、残虐、愚劣な様は人間の本質だ。私にも貴方にも刻まれている。そんな呪われた人間が一方で純粋に友や国、家族を想い犠牲的な意思を貫く崇高さが胸を打つ。しかし、それが同時に争いの動機になるのだから救いが無い。

 

▪︎もう一つの感想

ヒトラーナチスを絶対的な悪とする単純で暴力的な普通の戦後価値観に対する視点として、ドイツの若者たちの視点から第二次世界対戦・欧州戦争を描ききった傑作。ゲッペルスがプロパカンダの天才だとするのなら、富裕ユダヤ層も同様にプロパカンダの天才だ。ホロコーストはあったのか?の問いの答えは簡単だ。ドイツのアウシュビッツだけでなく、世界中全ての国が起こしあらゆる所にあったのだ。勝者の言葉だけが「真実」となっただけだ。そんな世界の中で、友や国、家族への想いのために全力で正々堂々と戦った若者たちの真摯な姿が深く胸を穿つ。

 

▪︎追記

著者のイメージから、この前に読んだ『薔薇密室』のような耽美的な作品だと勝手に思っていた。BL的な香りや要素もあるが、ストレートに戦争と青春を描いていて驚くと同時に、強く惹き付けられた。