「椿三十郎」

一生懸命なのは良くわかる。オリジナルシナリオを使用するという縛りの志も買う。でも惜しい。優等生が全力で過去の傑作を再現しようとしている痛々しい姿が透けて見えてしまう。シナリオの変更をしなくても、そのオリジナルシナリオで、オリジナルな椿三十郎を製作しようという意思や工夫や演出が一切見えてこなかった。
織田の演技も、優等生すぎだよ。現代の俳優のギラギラは出せているんだから、三船から遠いところでオリジナルシナリオの三十郎を演じて欲しかった。台詞一回一回に背中がぞくっとするような寒さが漂っては、映画に正面から向き合えないじゃないか。松山の演技やトヨエツの演技は良い線を出せていたんだから、主人公こそ縛りの上で挑戦をして欲しかった。シンメトリカルな構図や全体にピンが合う画作りもオリジナルから逸脱しておらず、結局最後まで印象は変わらず、有名なラストシーンに至って、最後の最後に裏切られてしまった瞬間に、残念ながら、現代にリメイクした意味を一切認められなくなってしまった。残念だ。
織田とトヨエツが相対し、スクリーンに緊張感が満ちる一瞬のリメイク版唯一オリジナルな展開の殺陣は、良いんだこれで。でもその後のスローリプレイは、どこまで観客を馬鹿にしているつもりか。センスのかけらも無く、全てをぶちこわしだ。
と書きながらも、実は正月映画としてこの映画を知り合いにお薦めしている。黒沢の椿三十郎の存在を気にせず、もしくは知らない人たちには、この物語は十分に面白いし、比較しない分だけ背中が寒くなることもなく、純粋に演技派スター勢揃いのお正月映画として楽しめると思うからだ。これがオリジナル企画だったら文句なしの正月映画だし、それだったら少しぐらい媚た演出も許容できるだろう。つくづく挑戦の精神を発揮することができなかった、優等生な限界が惜しい。