ネタバレ注意
映画や小説の感想は、ネタバレを気にせずに書いてあります。
ネタバレやオチを知ってしまうのが嫌な方はご遠慮ください。

『臣女』 吉村 萬壱 本 読書メーター

臣女 (徳間文庫)

臣女 (徳間文庫)

 

 全うな愛の物語だ。キラキラして綺麗で何の濁りもない「愛」なんて、思い込みと薄っぺらい常識に囚われた薄ら寒い幻想だって事を改めて突きつけてくる。臭い、下品、汚い。当たり前だ、介護なんだから。巨大化と痴呆の何が違うのか。追い詰められた状況の理由を自分自身に求めざるを得ない主人公の真摯さ。性愛に逃げてしまう弱さ。濁りきって混乱しきった心情の先に形作られていく感情は、愛としか呼べない。「純愛」よりこの愛を私は心の底から信じたいし求めたい。例えそれが地に落ちた愚劣なものであっても。交じり合う二人は、何よりも美しい。

『1ミリの後悔もない、はずがない』 一木 けい 本 読書メーター

1ミリの後悔もない、はずがない

1ミリの後悔もない、はずがない

 

 少女や女性にはどうやってもなれないので、彼女たちの繊細さや鈍感さ、柔らかく痛い所を芯までは共有はできないけれど、愛しい存在として想像し想いを巡らし共振する事はできる。できると思っている。どんなに精一杯、その時できる限りの事をしたとしても、失ってしまっ事へ1ミリの後悔も残さない事なんてない。だからこそ、勇気をもって踏み出していく由井の姿と最後の手紙に共感するし、桐原の電車の色当てゲームの提案に胸が熱くなる。逆に、加奈子の生き方には哀しみを感じるが、それは私を写す鏡でもある。必死に生きる強さが頼もしく切ない。

『破滅の王』 上田 早夕里 本 読書メーター

破滅の王

破滅の王

 

 科学や成果物そのものは善でも悪でもない。どう扱うかを決める人間が、意味を産むだけだ。科学者は倫理だけではなく、人としての心情や想いまでも問われる。戦時下と言う特殊な時間にだけでなく、今ここでも常に突き付けられている。程度の差こそあれそれは我々にも突き付けられている刃だ。その行いは、真摯に物事に向き合った結果なのか、「常識」に阿っただけではないのか‥。宮本や灰塚に共感できるのは、そうした問いへの夫々の応えか真摯な物だからだ。同じ様に真須木の想いを否定しきれないのは、私の中に共鳴する絶望的な諦観があるからだ。

『未必のマクベス 』 早瀬 耕 本 読書メーター

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)

 

 心に刻み込まれた浅い夢のような恋心は、消えることがない。消え去らない、消え去らしたくない想いを抱いた一人の男、男の子の初恋の物語に涙した。走り去っていく後ろ姿をいつまでも眺め続けていたのは、主人公なのか私なのか。放課後の校庭を走る君をいつまでも眺めていた私には区別がつかなくなる。遂げられないかららこその初恋の物語なのだから、悲劇にしかならないにしても、物語が終わる前に、互いの想いに気づけた事、言葉にできた事は幸せだ。彼の想いと行動が、燠火のように私の胸に残るものを揺さぶって、切なくて甘い涙が流れた。

『青春と変態』 会田 誠 本 読書メーター

青春と変態 (ちくま文庫)

青春と変態 (ちくま文庫)

 

 「変態」とはなんて爽やかなものだろう。「青春」なとはなんて残酷なものだろう。芸術家らしい確かな観察眼と緻密な表現力でスリリングに描写される前半の行為のドギツサは、文学すらも軽く超越した芸術的な詩作だ。もちろん一般的には嫌悪を催す内容で誰にも薦められるものではないけれど、その裏側にある繊細で初々しい感性と思考は、まさしく青春以外の何物でもない。後半に至っての青春成分大盛りの展開には、逆に偏執的な変態が横たわるからこそ、爽やかな感動と涙を与えてくれる。複雑怪奇だからこそ愛しい魂の叫びがここにある。

 

余談。「変態」にも微細に分かれた嗜好があり、それぞれが認めあえる物ではない。私の「変態」成分は、主人公の「変態」を気持ち悪いと思う。それでもその行為に没頭せざるを得ない衝動は共通のもので、脳の中で渦巻く言葉の数々は、そのまま自分のものだ。会田君は私だ!とユリイカと叫んだ哲学者のように叫びたい。もちろん神に誓って、覗きになどした事はない。勘違いしないように。 道端で拾った投稿雑誌がきっかけになったように、私は古本屋で出会った一冊が嗜好の光を与えてくれた。運命的な出会いこそが、人を希望へ導いてくれるのだ。

 

孤独な惑星―会田誠作品集

孤独な惑星―会田誠作品集

『図書館の魔女』 高田 大介 本 読書メーター

図書館の魔女 第四巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第四巻 (講談社文庫)

 

これほど終わって欲しくない読書は、本当に久しぶりだ。言葉と智恵の力が脳を刺激する知的快楽と、アクションが呼び起こす興奮、主人公二人だけでなく全ての登場人物の人となりが産み出す幸せな爽快感等がない交ぜになった悦びをいつまでも感じ、冒険の世界に遊んでいたかった。マツリカの強くか弱く聡明で無邪気で真剣な有り様だけでもノックアウトなのに、図書館に纏わる人々の生き方が、この世界を他に替えがたい物にしている。なんて気持ちの良い連中だろう。言葉が形作った虚構の世界が、こんなにも魅力に溢れている事の不思議。読書の悦楽満喫

 

 

図書館の魔女 第三巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第三巻 (講談社文庫)

 

智恵と言葉の持つ力が、世界を変えていく心地よさを存分に楽しめる巻。前巻までは蓄積され繋がった智そのものの快楽だったが、実勢の政治状況を智恵に裏付けられた言葉でダイナミックに動かしていく興奮に満ちていた。もちろん口先だけでなく行動する力があっての話だが、マツリカの発する言葉が全てを動かしていく様にワクワクせずにはいられない。言葉は文字や音声だけでなく、想いを持つコミュニケーション全てである事も心を刺激する。マツリカを苦しめる行為もまた、文字や音声でない言葉たと言うのも憎い所だ。大興奮必至の傑作。本好き必読。

 

図書館の魔女 第二巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第二巻 (講談社文庫)

 

 普通の人が当たり前に持つ何かを欠いていると同時に、特異な才を持つマツリカとキリヒトの二人。自ら望んだ訳ではない過酷な役割を全うしなければならない運命を受け入れながら、それでもなお、互いに相手が「当たり前」な生活を送れる事を心から望む想いに涙する。言葉を武器に深謀遠慮な政争を鮮やかに采配し乗り越える姿や、不死身の存在を徹底的に退治する姿が、鮮やかであればあるほど、彼女らの細やかで優しい祈りのような想いが、叶わぬ希望である事を突きつけられる。マツリカがキリヒトに伝えた言葉は、願わずにいられない切実な希望だ。

 

図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)

 

 主人公二人の井戸を巡る探求の冒険が、そのまま知識を深め活用する事の喜びを現している。小さな事象から、点と点を結び、線と線が面になり、さらに思考を深める事で高さと奥行きを生んでいくワクワクする興奮が伝わってくる。知識が深まり謎を通して世界が新たな様相を見せるそのプロセスは、ミステリーの醍醐味、快感とも相似だ。始まりの一巻から本を読む事、知識を深める事の楽しさを巧みな言葉で繰り広げられたら続く世界へと身を委ねるしかない。 口聞けぬ少女と言葉を読めない少年が、二人だけの言語で饒舌に語り合う様子もまた楽しい。