『フィニイ128のひみつ』

わからない。読んでいる間は、展開が早くて、それこそゲームブック読んでるようで面白いんだけど。最初に提示される謎と言うか「フィニイ128のひみつ」と言う言葉に関する謎がまるで解明されないまま終わり、散々広げられる意味深な状況や伏線が整理されずにあっけなく終わってしまい、表層以外の部分が理解不能で消化不良な心持になってしまう。
思わせぶりな世界を楽しむ、『ツイン・ピークス』などの作品は嫌いじゃないし、全てが合理的に結末で説明される必要はかならずしも無いと思うけど、それにしてもこの作品は受け入れるのが難しい。熱狂的にシンパーシーを感じる素材でもないし、主人公に感情移入できるわけでもないのでなおさらだ。謎だって全然魅力的じゃない。

ところでこの作品の内部には、ある巨大なカタストロフィが用意されています。ふたつのことに気がつけば、進行中の終局的な事態がはっきりと浮かびあがってきます。しかしその帰結は、通常の方法によっては提示されません。 (bk1の作者コメントより)

と作者が語っているが、それがまさかリアルな世の中のクーデターがらみの話でもあるまいし、ゲームとリアルな物事の相互侵犯の結果、語り部の少女の精神の崩壊ってのがカタストロフィってわけでもあるまいし。断章の並びと各章の番号が何かしら意味があるような気もするが、あまりにもヒントが少な過ぎるよ。
ジャック・フィニイ『ふりだしへ戻る』あたりの現代を拒否する心理と通底するものなのか?それなら128=80ってのは何なのか?
途中6Fの章には、ゲームブックのルールで進むと、進む事ができずその場合、結末までの流れに載れず延々とループを繰り返す事になる。そのバグめいたものがヒントなのか?
この混乱までも含めて楽しむ、作者のコメントも混乱のためのギミックとなる、事が作品の内容だとすれば、十分その魅力にはまっている事になるな。それならそれで、楽しかった。
作品の表層にある物語の、現実社会での生活の中心がヴァーチャルなゲームワールドの出来事にシフトしていく過程が面白い。ゲームに真剣に取り組むほどにリアルな世界が陰を薄くしていきながらも、逆にロールをプレイしている登場人物にとっては世界がリアルになっていく。ゲームの世界もリアルな世界もしょせん大きな物語の中での関係としての役割を演じていく事でしかなくて、目的が分かりやすく具体的に言葉で(しょせんゲームの中の荒唐無稽で陳腐なものだとしても)設定されているだけにゲームのロールの方が、人にとっての有効なフレームになる。自分探しや、生きる意味の探求と言う嘘・幻想が完全には成立できなくなっている今、外から与えられ明確に定義された物事の方が有効になってしまうと言う事について考えさせられる。
それにても評価しがたい。好きかと言われれば、好きかなと応える程度の面白さ。
■本:ハヤカワSFシリーズ・コレクション フィニイ128のひみつ