「新選組!」

で、日曜の3本目に新選組!
今までの大河はどうだか知らないが、三谷新選組は面白い。
歴史が動いている中で、日常の一日を切り取り、大きな流れに巻き込まれていく若者逹を描いていく内容にとても好感がもてた。評判があまり良くないと言う書き込みも時々見かけるが、そんな事言う奴は見る目がないし、頭が固いなと思う。
四回目の今回は、三谷幸喜得意のワンシュチエーションドラマの良さが全面に出ていた。演出が民放ドラマ特にフジテレビ共テレ流れの制作者のそれに比べ、あいかわらずぬるい気もするが、NHKの視聴者層を意識していけばしょうがないペースなのかなとも思う。少なくても今までの大河の温さやとろさに比べたら全然問題ない。
祝言の日の道場と言う設定の中で主人公級の登場人物逹と脇役のそれぞれが、巧みに出入りし話を進めていく。所々に琴線に触れる心に響く台詞が登場する。勇の奥さんの台詞の禀とした強さはどうだ!構成の巧みさがこなれていて、あっと言うまの40数分だった。こういう良質な構成の描ける脚本家は、クドカンか三谷以外に現在他にそうはいない。
そして、激動に身を投じ歴史に参加したいと言う熱い思いを心に抱く近藤勇に対して、日常や平凡の良さを語る道場の兄弟子(役名も役者の名前も失念した)の存在感をシンプルに丁寧にシーンとして取り扱っている所に、逆に深い熱さを感じた。
歴史の激動の中でまだ何者でもないと焦燥感を感じている若者特有の熱さと、あまりスポットのあたる事は無いがそうした若者と同時に生活していた平凡な人々の思いも描こうとする姿勢は褒めても褒めすぎる事はない。これから先勇逹が新選組として頭角を現し歴史の舞台に登場してくる裏、彼らの心の中の一部にそうした人々との生活や思いがあった事をドラマとしてまとめていくのなら、この時点で「大河」ドラマとしての志と質の高さとドラマとしての成功は保証できると言えるだろう。

今日一日で、毛色のまるで違う3本の時代劇を観た。
いわゆる王道の時代劇は1本も無い。時代劇が今のトレンドの一つだと言う事もあるだろう。
何よりも新しい時代劇が産まれてきている流れにある作品を、鑑賞できる事はとても嬉しい。
歴史小説や時代劇は、どんなに検証や考察を重ね深めた所で、当時の人達の生理や心理、価値観や風俗を決して共有できないと言う点において、全てが現代の人々の想像の上に創られた、フィクションとしてしか存在できない。創作物だけではない、極論を承知で言えば、歴史認識だって最終的には同じ構造のフィクションだ。少なくとも現代に生きる人間が、その目や脳を通して構築したものだと言う呪縛からは逃げ切れない。
その意味で伝統や過去から連綿と続く常識に安住し共同幻想と化した「常識」に則した正統派時代劇だろうが、異端の時代劇だろうが等価だと言うことだ。
新選組!」も「ラストサムライ」も「あずみ」も水戸黄門も鬼兵犯科帳も必殺シリーズも「七人の侍「乱」「用心棒」などの黒沢明監督の時代劇も司馬遼太郎の時代小説も、全てが同じものなのだ。後は高尚だとか、教条的だとか、娯楽色が強いだとか、観る側の気分でしかない。
歴史上起こったとされるエピソードそのものの嘘以外は、全てがレベルの違う嘘に基づかれているのだから、後は自分の感性に合うかどうかの評価でしかない。
そして俺は司馬遼太郎の作品好きの、教条的で正統を気負う姿勢、フィクションである「時代劇」を一段低く見下す姿勢、自覚的か無自覚かはどうであれ歴史に今を反映して歴史物が好きだとか君もっと歴史物を読まなければいけないよなどと言う感覚は、大嫌いで馬鹿で愚かだと言い切る。司馬遼そのものがと言うことじゃない。彼は多分に作品がフィクションである事を自覚して、小説を語ろうとしていたと思う。その彼の作品を読みながら、ストレートに坂本龍馬の生き方がどうこう、明治維新後の人々の生き様がどうこうと小賢しい事を口にする輩が、醜いと言うのだ。プレジデントな精神のオヤジに死を!
時代劇を楽しむと言うことは、結局そのフィクショナルな部分を意識して、後は自分の感性・興味・問題などに触れるかカタルシスを与えてくれる作品を楽しむと言うことだ。
今日観た3本は制作者がそれぞれ真摯に考え抜いた方法で、新しい創作物を作り上げた・作り上げていると言う点で、高く評価でき、共感を覚える。
新選組!」の平凡な結婚生活の良さを話す兄弟子の言葉に、今の自分につながる葛藤と答えの一つを感じれば、じんと熱くなるし、勝元の生き様が説得力が薄ければただの自意識過剰な犬死にでしかないと冷めた目で見るしかない。

なんだか長くなってしまったけれど、簡単に言えばどの作品も面白く、できるだけ多くの人に薦めたいと思ったと言う事だ。
新選組!」の評価が低いと言うのは、かなり残念だ。こういう時代劇こそが、今観るべき時代劇だと思うし、この「大河」こそ現代の「大河」だ。見慣れて手あかのついた進歩していない価値観に安住した大河ドラマなんて見る価値もないぜ、と大きな声で言いたい。

公式サイト http://www3.nhk.or.jp/taiga/