「69」

村上龍好き、クドカン好きとしては放っておく事のできない映画だ。
自伝的な小説も、他の作品とは違う脈動感に満ちた良い青春小説だったけれど、この映画も気持ちの良い青春映画だった。
実際の69年の事はまるで覚えていない。79年闘争も小学生だった。だから政治の季節は知らない。それでも、この映画の世界にはまるで関係ない。
妻夫木にしろ安藤にしろ、現代の少年の顔のままだ。
暑い夏の18の男のどたばたとした行動、それだけが問題なのだ。暑い夏を熱く過ごした男の子なら、だれだって共感できるだろう。
あの頃のモチベーションは、好きな女の子のためが全てだった。レディージェーンの気を引くためだったら何だってやったか、やろうとしたさ。勇気や仲間のいない時には、気持ちだけだったけれど、それでも彼女のためな何でもできる、できればキスしたい、セックスでってしたいぜ!ってなものだった。
その男の子のリビドーが暑苦しく画面から伝わってくるのが嬉しい。
一緒に夏の佐世保を走っているような気分にさせられる。クドカンのシナリオも上手い。オリジナルの登場人物や、両親などの存在を巧みに使い原作の気分を、今の映画として表現しきっている。
全体を通してクスクスゲラゲラ笑わせながら、少年の無駄な力の開放を自然に見せている。オー・チン・チンの歌を放送室を占拠して流し続けたか弱い仲間が、生活指導の教師に捕まった時、主役のケンに見せる小さなピースサインなど、泣かせる所はきっちりジーンとさせる。後半の8mm映画撮影のための湖畔での二人がキスを最後までしないのが、あっぱれだ。台詞の一つ一つが優しいしね。
マドンナ役の少女は知らない女優さんで、最初あまり魅力的とは感じられなかったけれど、ケン逹の馬鹿さ加減を共有しているうちに、青春のリビドーを捧げたくなる女の子に見えてくるから不思議だ。
ノスタルジーでなく、こういう馬鹿ができなくなった今、本当にこれで良いのかと思う。俺もリビドーのままに毎日を燃えていかなきゃいかんよな。
暑い夏こそ、熱い思いで走らなきゃいけん。
青春ははったりと勢いなんだから、今だって立派な青春時代だろ。
「と言うのは嘘で、」って言って欲しかった。