『孤虫症』 真梨幸子

第32回メフィスト賞受賞作。有閑専業主婦のエロ小説として始まるこの作品の質感は、凄い。数行読み進めると、他に類をみない奇妙な肌触りでこちらに侵入してくる。最初はただの欲求不満主婦の日常をのぞき見ていたはずなのに、いつのまにか自分の中に違和感が染み込んでいる印象だ。読んでいてぞくぞくする感覚だ。リアルだったののが少しずつ異質なものに彩られ始め、章が変わるたび、ループを描く様にその違和感までもが異質なもに変わっていく。読書中の感覚の足下がグズグズと崩れて変化していく不安感は、絶品だ。安定した価値観や感想で通読することができない。
サナダムシ、土着の虫が、出てきて、同時に語り部の内面がにじみ出してくる頃には、すっかりこの作品の奴隷だ。
ラストの決着の付け方は、評価が分かれるだろうが、俺はどうでも良いと思う。その前までに味わえた感触、ざらざらぬめぬめした読書感だけで、満足だ。
さうがメフィスト賞。ミステリーの可能性を広げてくれる。萠えやくだらないラノベ風味や、古典趣味風の薄味な本格のパチモノを世に送り出すだけじゃなかった。バイオ・サイコ・ホラーだとはこれっぽっちも思わないけれど、奇妙な味のミステリー風小説としてお奨めする。