「セルラー」

これは良く纏まっている。人生になんの影響も与えないし、何か意義があるわけでもない。だからこそ傑作だ。最初の五分で状況を語りきり勢いを失わないまま、物語が進んでいく快感。1時間半の娯楽で、その短時間を気持ちよく過ごす事のできる映画だ。映画内の矛盾もない。
キム・ベイシンガーの生活感と加齢感も良い。生っぽくってしわしわで良い味だ。本当にハリウッドは映画役者の層が厚くて羨ましい。
こういうエンターテイメントだけを志向した映画は、もっともっと評価されるべきだ。何も産まない潔さは、ぐずぐずと何かを表現しようとする卑しさを簡単に凌駕して、心地よさを与えてくれる。たった一つの携帯電話と間違い電話だけで、ここまで物語を作る才能は、すばらしい。
東海岸の「フォーンブース」と良い対を成す西海岸の手触りの電話ミステリー映画として、両作品とも娯楽映画の傑作の仲間入りだ。
最期にキムと主人公が初めて出会うシーンの感動的な事。観賞の価値、大いにあり。単純に映画が与えてくる楽しい時間を過ごせる事、間違いはない。