『ゲッペルスの贈り物』 藤岡真

8年前、新刊として本屋で平積みにしてあったのを見た時から気になっていた。その後タイトルを忘れてしまい、そのままだった。2、3年前からひょんな事をきっかけに探してはいたのだが、絶版になっていたようで見つからず、古本すら市場には出回っていないようで発見できなかった。それが創元社から文庫発刊と言う事でやっと入手する事ができた。
まあ、そうした私的な事はどうでもよいが、この作品は期待に違わぬ傑作だった。
第二次世界大戦末期のUボートの中の描写から始まり、現代の謎の殺人へのと話が一挙にジャンプするあたりには、すっかり話に夢中になった。
謎のアイドル、ゲッペルスの遺した秘密兵器、異常なまで増加している自殺、謎の殺人者、ちりばめられた謎は最後まで興味をひきつけ、見えてくる全体像は想像を絶するほどの超絶ではないものの、魅力的だ。細かな部分で最後の最後まで裏切られる続ける心地よさもある。
発表された年度の問題からいくつか古くさく感じる部分もあるが、全体への影響は少ない。愛嬌のぶるいに入るだろう。謎の根幹に関する設定の淡泊さも、逆に説得力を持つと俺は思うが、ここは人それぞれ感じ方が違うだろうな。ここがダメだと、全部が肩すかしになるだろう。そこも含めて楽しんで欲しい。
ただ一点気に入らないのは、最新作の『ギブソン』でもそうだったが、作者の文章は、俺にはリズムが悪く感じるし、言葉選びと並べ方のセンスがおかしい。下手くそな文章とはまでは言わないが、けっして上手くない。技巧的だとか美文である事は求めないが、一つの文の中で繰り返される単語のうざったさや、指示語の居心地の悪さは、読んでいる間気になってしかたなかった。
そんな点を考慮しても、ミステリー好きにはぜひ読んで頂きたい佳作だ。ただし、重厚な歴史ミステリー好きには向かない。