『臣女』 吉村 萬壱 本 読書メーター

臣女 (徳間文庫)

臣女 (徳間文庫)

 

 全うな愛の物語だ。キラキラして綺麗で何の濁りもない「愛」なんて、思い込みと薄っぺらい常識に囚われた薄ら寒い幻想だって事を改めて突きつけてくる。臭い、下品、汚い。当たり前だ、介護なんだから。巨大化と痴呆の何が違うのか。追い詰められた状況の理由を自分自身に求めざるを得ない主人公の真摯さ。性愛に逃げてしまう弱さ。濁りきって混乱しきった心情の先に形作られていく感情は、愛としか呼べない。「純愛」よりこの愛を私は心の底から信じたいし求めたい。例えそれが地に落ちた愚劣なものであっても。交じり合う二人は、何よりも美しい。