『贈られた手 家族狩り 第三部』 天童荒太

5冊連続刊行の3冊目。第一部の『幻世の祈り』を読んだ時の感想に変わりはないが、第三部に至ってベースとなった『家族狩り』は別のものなのだなとの感じが強くなる。もちろん大筋は変わらないのだが、真摯な作者の姿勢、より今に届く物語を紡ごうという想いが強く伝わってくる。なんてまっすぐな人なんだろう。刑事馬見原が保護し大切している夫に暴力を受けた女と子供との関係、そこに現れる夫の言葉に複雑な心情になる。傷ついた家族の心を、関係を直せるは家族だけだと言う言葉。疑似家族に安寧の気持ちを抱いていた馬見原に突きつけられる、真実を見ろとの言葉。どの家族が本当の家族なのか。疑似家族でも間違いのない愛情のはずだ。それでも本当の家族にはなれない。数十年を過ごした実際の家族の間には深く取り戻せない亀裂が走っている。家族から逃避した男に、疑似家族を守る事ができるのか。馬見原の苦悩は、そのまま俺の愛は本物かと言う言葉になって突き刺さる。
もちろん家庭内暴力児童虐待などこの作品の真ん中にあるテーマも重く考えさせられるが、逃避と甘え、そして人と人との間に流れる想い=愛情の問題として俺には響く。
答えなんてない。風の中にあったら、もうけものだ。ありはしない。それでも修正しながら自分と自分を取り囲む大切な人達、そしてそれ以外の人達の間で何かを築いていくしかない。間違いを恐れず、受け入れ修正し試しながら信じながら。
天童荒太は、どうしてもこうも言葉が直接響く作家なのだろう。