『クヒオ大佐の妻』 舞台 東京芸術劇場シアターウエスト 愛と幻想の狂気が安アパートで静かに炸裂する

吉田大八作・演出。

1970年代から90年代にかけて、カメハメハ大王エリザベス女王の親類であると偽り、結婚詐欺を繰り返した「ジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐」と名乗る実在の日本人をモチーフにした作品。クヒオ大佐の妻を主人公に据え、狭いアパートで彼を待ち続け、夫はアメリカ海軍のパイロットだと言い張る妻の姿を描く。

公式: 舞台『クヒオ大佐の妻』公式サイト

吉田大作は、映画『クヒオ大佐』も製作しているが、登場人物はクヒオ以外は直接リンクはしていない。

 

稀代の結婚詐欺師クヒオ大佐の妻という存在を、宮沢りえが熱演していた。

普通に考えれば嘘だとすぐわかるクヒオの話だが、それを信じた/信じる女の心情ー愛と狂気ーを静かに時に狂的に演じる彼女の姿から最後まで目が離せなかった。

 

映画が、嘘を信じさせるために間抜けなくらい一生懸命だった男のリアルな話だとすると、その男を心のそこから信じることに決めた一生懸命な女のリアルと妄想の域を超えた世界の話だった。

日常的すぎるくらい日常的な普通のアパートの一室、その裏に広がっている幻想の愛に囚われた女の広大な妄想の世界と巻き込まれる男女たち。観劇中その域が自然に消えていくことに戸惑うが、気がつけば、この足元の不安定な感じこそが、この舞台の伝えたいことだったんだと気づく。

青臭い政治的ないくつかの台詞やちょっと舞台を意識すぎな演出などに鼻白む瞬間があったり、観劇後すぐはポカンとしてしまったのも正直なところだが、だからこそいったん冷静に舞台を降りかえってみるとその面白さに気づくことができた。

ある意味あとを引く舞台だったと言える。

 

女の愛と妄想と狂気と純情。

カオスな世界が、美しく静かな宮沢りえの表情で幕を降ろした瞬間がとても強い舞台だった。

 

宮沢りえの舞台は、3月の『足跡姫』に続く今年2度目だったが、異なる質感の存在を見事に演じきっていて、改めて凄い女優だと実感した。

シアターウエストのような小さな小屋で、至近距離で彼女の目の表情を見ていたら、そのまま彼女に取り込まれてしまうような錯覚を感じた。

そんな彼女に触れるだけでも十分に価値のある舞台だ。

 

吉田大八と宮沢りえの対談。

宮沢りえの女優としての感性に触れることができるインタビュー。

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『髑髏城の七人 花』 舞台 劇団☆新感線 回る、回るよ客席回る♬ ちょっと酔いそうなの

 

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豊洲に新しくできた360度舞台で観客席が回転する劇場のこけら落とし公演。

 

劇場の様子も書こうかと思ったのだけど、場内は上演中以外も撮影禁止だったので、内部の画像は割愛。

 

ド定番の髑髏城。ベースはワカドクロ。

小栗旬が捨之介を演じて、山本耕史が蘭兵衛を演じる。極楽太夫のりょうの存在感が良かった。

捨之介は、オリジナルの古田新太も良かったが、ワカドクロ以降は、小栗旬のはまり役でキメの台詞の大見得を切る様は、なんとも貫禄の大迫力でも、観ているこっちも身体が震える快感だった。

 

アカドクロ、ワカドクロをゲキシネで観ていただけなので、生の舞台は初めて。

360度舞台が設置され、客席が回転する構造の劇場の特性を100%活用して、横と奥への広がり、水や作り込まれた重たいセットで、新感線らしいダイナミックな演技や殺陣が繰り広げられて、出し物としては充分に楽しかった。

水滴使ったスクリーンに投影されるタイトルの下に立つ小栗旬は、立体的にガツンと飛び出す髑髏城の七人の文字と融合して絵になってたな。

 

見世物としてなら、まさにいのうえ歌舞伎。しかも舞台は最先端だから、アップデートされてるから現代歌舞伎の真骨頂とも言える。

 

でも、なんか最後まで没頭できなかった。

同行者がいみじくも「やっぱり舞台は四角い方が良くない?」とポツリと言っていたが、特殊な舞台の凄さが全面に押し出され、演劇じゃなく劇場を観ている感じがどうしても頭から離れなかった。

実際に舞台は凄いんだよ。流れる水や、ウォータースクリーン、緞帳ではなくプロジェクションマッピングのスクリーンだし、花道代わりの円形の周縁通路は、演者が右へ左へ走り回るのに最適なフィールドだし、観てて飽きないのは間違いない。

客席の動きも思ったよりもスムーズで、アトラクションとしては上出来だと思う。

 

会場の機能を使い切りって演じるって事では、多分日本では新感線が一番最適な劇団だ。しかも髑髏城は最適な演目なんだけど、落ち着いて世界を満喫するにはその他の要素があまりも多すぎた。

この環境に慣れてないからかも知れないが。

 

小栗旬やりょうたちの演技は、物凄く良かっただけに残念なのが正直な感想だ。

あと劇場に合わせた演出のためなのか、前半はほぼ笑いのない展開。古田新太が一人で笑いの芝居は担って、劇団役者としてバランスを取ってた。シリアスと笑いのバランスがなんとなく前半は悪かった。

 

微妙な書き方なのは承知なのだけど、楽しくなかったかと言えば楽しかった。

世界で二番目、日本初の円形ステージ、動く客席と言う新しい劇場で、今までとは異なる観劇体験としてなら最高の体験だった。

ただアトラクションを楽しみに来てる感覚が強いので、演劇をどっぷり楽しむってのとはちょっと異なる感触だった。

 

次回は、阿部サダヲが捨之介、早乙女太一が蘭兵衛、極楽太夫を松雪泰子が演じる、『鳥バージョン』だ。

もちろん観に行く。

あのステージには慣れた。

どんなアレンジで、花バージョンとは違った舞台を繰り広げてくれるのか楽しみだ。

 

 

『髑髏城の七人』DVD

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シネマ歌舞伎「野田版 鼠小僧」 舞台 映画 

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「足跡姫」を観劇した流れで、野田秀樹×勘三郎+三津五郎の舞台を再見。

 

金の亡者の棺桶屋の三太が、ひょんなことから義賊の鼠小僧となって年の瀬の江戸の町に小判の雨を降らせる。歌舞伎の所作で、野田秀樹の世界に翻訳されたクリスマス・キャロル

古典芸能としての歌舞伎ではないけれど、大衆芸能としての歌舞伎として、笑って、驚いて、ほろりとさせられ、満足して劇場を後にできる楽しい舞台だった。

 

勘三郎野田秀樹がタッグを組んだ歌舞伎としては二作目。

二人は盟友として楽しく舞台を作っていったんだろうなと思わせる。

歌舞伎座の回転舞台とセリの機能を存分に活かしたセットの中で、勘三郎がところ狭しと駆け回り、野田秀樹が取り付いたかのように喋り捲る。鳴物は赤鼻のトナカイを三味線で演奏する。

観客が普段の歌舞伎とは違う反応をしている様を楽しみながら演じ続ける勘三郎の表情。

野田秀樹の才能と勘三郎の歌舞伎への想いが、がっぷりと組み合って、観客を巻き込んで奇跡の舞台を作り上げているのが、画面越しでも伝わってくる。

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町民を演じる脇の役者達も普段のその他大勢とは違い、舞台の一員として生き生きと演じている。野田秀樹勘三郎の熱が周りにも感染してる感じが観ていて気持ちよい。

生の舞台を見たかった。

 

歌舞伎では普段行われないカーテンコールに野田秀樹の姿は見えないが、勘三郎のすぐ隣に立って、にこやかにしてやったりと笑っている様が目に浮かぶ。

舞台の楽しみにあふれた素晴らしい体験だった。

 

 

 

「足跡姫」 舞台 NODA MAP 例えその身は滅んでも


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池袋芸術劇場。

前回の「逆鱗」とは異なり、往年の多層な解釈と大仕掛けなドンデンの展開ではなく、ある意味ストレートな舞台だった。

 

亡くなってしまった勘三郎へのオマージュと言うだけあって、彼への想いや歌舞伎、演じる事への野田秀樹ならではの想いをストレートに、隠喩的に、多義的にまとめ上げた内容だった。

 

ラストシーンの桜の美しさ。その中で妻夫木聡演じる歌舞伎作者のさるわかが語る舞台と役者の在り方に胸が熱くなった。

あえての女歌舞伎が、出雲のお国と足跡姫の行く末から二度と陽のあたる場所に登場できなくなる代わりに、女形の歌舞伎へと繋がっていく。

幕が降りれば虚構の舞台での出来事はリセットされ、明日へ続いていく。

たとえ今は消え去っても江戸の時代からいまこの場所へと役者の想いは代を重ねて連なっていく。

そんな叫び、に心が震えないわけがない。

 「肉体を使う芸術。残ることのない形態の芸術」の辛さを勘三郎への弔事で読んだ三津五郎の言葉へ応える野田秀樹の姿勢や姿が、強く印象に残る。

 

野田秀樹勘三郎を失ってしまった事の悔しさとそれを乗り越えるための決意が、衒いもなく繰り広げられていく舞台を他の観客たちと共有できた事が嬉しい。

 

カーテンコールの最後、野田秀樹独りが舞台に残り、センターに正座しお礼のお辞儀をする姿に、歌舞伎の口上に繋がる役者の姿が重なり、涙が流れた。

「皆、シンデレラがやりたい。」 舞台・根本宗子作、演出 下北沢本多劇場 こじらせアラフォー女に魅せられて

シンデレラって、なるもんじゃなくて、やるもんだったんだな。恐るべしアラフォー女子。

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自らの劇団の本公演ではなく、外部プロデュース公演。

根本宗子が劇団☆新感線の高田聖子、大人計画猫背椿、ナイロン100°Cの新谷真弓の三大看板女優を迎えて、アラフォー女三人のこじらせまくりな痛々しい世界を描く。

 

マイナーアイドルを追っかけしてるアラフォー女性三人を演じてる、高田さん、猫背さん、新谷さんの存在感が半端なかった。舞台の上で活き活きとリアルに、痛々しい大人の女を楽しそうに演じていた。

 

ストーリーが進む中で、やがて三人の間の見えないようにしてた溝があらわになり、物語がは思いもよらぬ展開をむかえる。

いつもの根本宗子だったら、最後のここで舞台ならではの大仕掛け、チャンバラ合戦や時空のジャンプなどで一気に物語を大転換させるのだが、

今回は違った。アラフォーこじらせ女子の日常の延長にある転換で、痛々しさを、カタルシスにまで昇華してみせた。

高田さんの演技もあって、あの瞬間痛いこじらせ女が、輝いてみえるんだから不思議だ。

 

高いテンションと、マシンガンのような台詞の応酬で、観客をぐいぐい引っ張っていき、痛さや愚かさを笑いで救いながら心にグサグサ突き刺さる台詞を投げつけてくる根本宗子らしい舞台だったが、今回はいつもとちがう外部のベテラン女優の三人がさらに作品を深化させ、こじらせ女の痛さ、それでもシンデレラがやりたいという哀しい女のサガを、突き抜けた先の輝きにしてしまう強さ。

最強の舞台だった。

 

 

次回は本公演らしいが、本公演でも外部プロデュースでも、小劇場でも大ホールでも、そこにあわせた力技の舞台をぶつけてくる根本宗子。未見のかたはぜひ一度舞台をご覧ください!