「東海道 四谷怪談」

天知茂主演の新東宝の傑作怪談映画。60年代制作の映画で、傑作の誉れ高い作品だと知っていたが観る機会がなかった。やっぱりケーブルはこういう時に助かる。来月はあきらめていた大林の「麗猫伝説」があるし。
天知茂の気迫こもった演技と、光と闇をライティングで徹底して管理した演出のキレは見応えがある。何よりも岩役の女優の演技は神業物だ。短いながらも邦画の技術と演出の粹が結晶した傑作だ。
岩が死に、寺にこもった伊右衛門の元へ岩の妹と許嫁が仇を討ちにくるあたりから、岩が戸板に打ち付けられた状態で恨みを述べるシーンの畳みかけるような迫力。梅との祝言の夜、蚊帳の外、すだれの前に立つ岩と伊右衛門とのやりとりは、特殊効果を一切使わず照明とカットワークだけでおどろどろしい空気まで表現しきって、その凄みは今の邦画のホラーでは観る事ができない。
傑作だ。何度でも観る。かわぐちかいじの『アクター』もこの映画の存在をベースにしていたはずだ。再読したい。こういう時マンガの単行本を買わない主義で失敗したなと思う。「嗤う伊右衛門」も早く観なきゃ。