「ジョゼと虎と魚たち」

とても良くできた「恋愛映画」だ。ひとつひとつのシーンや登場人物がていねいに描かれている。性欲と食欲に素直なだけの薄っぺらい普通の青年と社会との接点を持たなかった下半身麻痺の少女の、現代の恋愛。
最初俺は、少女のハンディキャップが恋愛の障害になり、それを乗り越える恋愛、その過程で青年が成長する物語かとかってに想像していたが、まったくの想像違いだった。
映画の教科書にあるような構図ではなく、今に地続きな恋愛映画で、静かに心に響く映画だった。多くの人が好きだと言う理由がよく分かる。
簡単に恋に落ちる二人は、簡単にセックスをする。青年はいつもと同じように、短い期間で次のセックス相手の恋人に行ってしまう。そのどうしようもない普通の恋愛と、人生初で最期の恋を生きる少女との切ない関係が、この映画が描く恋だ。だからこの映画は池脇千鶴が演じるジョゼの映画だ。
ラストシーン、街を風を切って走る彼女の強さ、旨い料理を作り続ける禀とした姿、未練を感じさせない潔さ、恋を終えたジョゼの姿は、身にしみる。
心で感じても、頭で理解しても、とても理にかなう、とても良くできた物語だと思う。監督の犬堂一心の演出、池脇千鶴のいつも通りの好演、妻夫木の奇跡的に珍しい好演(キャラとのシンクロ?)、どれも素晴らしい。素直に賞賛できる。それでも残念ながら俺は、この映画には心動かされなかった。最期まで淡々と良くできた映画だなとしか思えなかった。冒頭のだし巻き卵の朝食シーンだけは別だけれど。
恒夫のキャラクターが俺には一切感情移入ができなかったからだ。性欲、食欲に素直な事は同じだけれど、彼の存在の仕方は、俺には理解できない。最期の最期泣き崩れる姿だけがポイントで突き刺ささったが、それだって一瞬の感情の高ぶりで泣いてしまえば終えてしまえるような同性に自分の何かを重ねられなかった。