『私という運命について』 白石一文

白石の書く男については、時々書いてきた。
不快な癖に読まずにはいられない。このグジグジと嫌な男は俺だ、としか言えなくなる。
そんな著者が女性を主人公にした長編を書いた。
作者らしさに満ちた作品だが、やはり質感が男性目線のものとはかなり違う。
自分の卑しさを逐一指摘され、傷口に塩を塗り込まれるような感じがなく、適切な距離感で主人公を描いている。
どこか爽やかですらある。無理矢理なドラマはどこにもなく、日常を舞台にして主人公が行動と内省を繰り返し、いつまでも続く日々を重ねながらドラマを紡いでいく。最後に訪れる出来事の衝撃と悲しみは、最後まで読者を安易な感情移入者にしない。
だからこそ響いて流れる涙が痛い。