「ダークナイト ライジング」 ★★★★

とりあえず伝説は、壮絶に終わった。
上映中ノーランのマジックに魅せられ続け、あっと言う間に三時間近い時間が過ぎていた。ビギンズから始まる映画的なリアルでアメコミを描ききる映像の試みは大成功に終わった。
ラストシーン、彼が洞窟に踏み出し、周囲を見上げる。決意をもった一歩と同時にグンと立ち上がっていく舞台、パツンと暗転するスクリーン。完璧な編集とカメラワークだ!この一瞬だけでも映画的快楽に溢れてた。スクールバスに乗る子供たちへ見せた監督の決意とメッセージは、ハリウッドの娯楽大作の中でできうる最善の物だと思う。その上アン・ハサウェイのキャツトスーツ!! モービルに乗った尻の曲線のエロスにノックアウトで、満足満腹だ。

それでも「ダークナイト」を経てしまった後では、こちらの勝手な高い期待と願望のせいで、不満も残る。
ビギンズの直系のテーマではなく、ダークナイトで絶対悪との対峙の中で表裏としてしか存在できないのかと迫られ、最終的に選択した"正義"。法と秩序からははみ出す、はみ出されるダークナイトの正義・倫理から、かなり後退した所で、今回の映画は始終してしまっている。
ベインが掲げる反乱の根拠-99%の正義- との対峙を本気で描ききって欲しかった。バットマンが守るいまそこにある世界は、1%の富裕層と99%の被搾取層とで出来ている、否応なくそうした構造になっている。その世界の中て99%の正義のために起こった暴力は、果たして悪なのか?新しい秩序のための破壊は排除すべきものなのか?純粋な悪との対峙を越えた次には、今現在の倫理の限界で、答えを示して欲しかった。答えなんてないのは分かっているから、そこに向き合って欲しかった。
残念ながら映画ではベインはとても中途半端で、市民軍もただのマフィアやならず者の集団でしかなく、排除される側として当然の役割しか与えられていない。ファナティックでも己の口にする根拠を信じているキャラクターだったら、もの凄く魅力的な存在になったはずなのに非常に残念だ。だから、この作品にはダークナイトほどの魅力を感じることができなかった。ただの勝手な無い物ねだりなのは良く分かっているけど、底流に生きざるを得なかった市民たちの抑圧され続けてきた正義と、没落をしながらも富裕層が掲げる現状の維持を目的とした正義の対峙。相対化の罠の中で、見つけ出される希望。ダークナイトの後であれば描ききれたかも知れない地平を観たかったな。
とは言っても、作り込まれた映像、全てのキャラクターの魅力、いまさら俺が言うまでもなく、大人のためのバットマンとしては最高の一作だ。これからも何度も観返すシリーズであるのは間違いない。