『ダ・フォース』上・下 ドン ウィンズロウ  本 読書メーター

ダ・フォース 上 (ハーパーBOOKS)

ダ・フォース 上 (ハーパーBOOKS)

 
ダ・フォース 下 (ハーパーBOOKS)

ダ・フォース 下 (ハーパーBOOKS)

 

 悪徳警官であると同時に、誰よりも街を愛し正義を求めるNY市警部長刑事マローンの造形、想いに圧倒された。組織、政治、思想や宗教、欲望と暴力の坩堝大都会で、純粋な初心を貫きながら現実的な「正義」の実件の過程で、キングに成り上がり倫理の道を踏み外して行った彼の最後の独白に涙した。傲慢から一線を越え窮地に立たされたのは彼の自業自得だし、巻き込まれ殺された子供たちの犠牲への怒りも偽らざる本心だ。罪の報いと正義の勲。建前の健全さに隠された濁を受け入れざるを得ない環境の中で最後まで警官であろうとした彼に深く共感した。

『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』 牧村 康正,山田 哲久 本 読書メーター

「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気 (講談社+α文庫)

「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気 (講談社+α文庫)

 

 読書中ずっと爽快と嫌悪を感じる、生々しい男の話だった。60年代後半産まれの映画、アニメ好きには、西崎、角川、奥山、山本の4人のプロデューサの名前は忘れられない。私的ヤマトFCを作った私には特に西崎の存在は大きかった。いたる所で「愛」と語る胡散臭い山師。ヤマトを創った偉大な男。何よりもプロデューサと言う職業を憧れの仕事にした男だ。彼の偉業と醜悪で横暴な行動・欲望はコインの裏表だ。こんな彼(ら)でなければ、熱狂と桁外れの興奮とロマンを与えてくれる作品は創造できない。規格外の狂犬が、今再び現れる事を強く願う。

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN VI 誕生 赤い彗星』 映画 どれだけの人数の死から物語が始まるのか。皆殺しの富野の変奏曲。

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J-COM VOD劇場公開同時配信で鑑賞。

ついに、オリジンが終わった。ORIGIN I で3倍速い赤い彗星の戦闘シーンから始まったシリーズは、ルウム戦役、レビル大将捕獲の1stシリーズ直前で完結した。

満腹、満足だ。

冒頭の連邦戦艦とジオンモビルスーツ部隊の戦闘はCG全開の専用シーンだが、そのスピード感と動きに大興奮だ。

1stの手書きアニメでは絶対に表現のできない艦隊戦も満喫だきただけで、一見の価値がある。

 

ストーリーは1stガンダムの第1話に続く必然のため、既知の状態に収斂していく。そのため大きな驚きはない。

過去5作の中にあったオリジナリティの高い展開、モビルスーツ開発秘話、ラルとハモンの過去やシャアとセイラの過去のようなオリジンらしいサブストーリーがあるわけではない。

レビル捕獲の過程とデギンとの交渉とその結果が多分6のオリジナル部分にあたるのだろうが、ここまで物語が進めばルウムの戦闘が一番の見せ場になり、サブストーリーも添え物以外の何物でもなくなる。と言いながら最後に近いある人物の演説の有名なセリフには震えたが。

オリジンの主人公であるはずのキャスバルも今回は、完全な主人公にはなれていなかった。

1stへと繋がる大きな物語の流れがこの作品の主人公だ。

ああ、ここからあのガンダムが始まるんだという綺麗な繋がりがなによりも満足に繋がる。

ラストの一言、オリジンの締めとしては完璧だ。

 

30年以上前、ブラウン管テレビの前で、パイロットの排気音が流れスペースコロニーにザクが侵入するシーンを観て感じた、今までどこでも見た事のなかったSFでリアルな世界観を持った本格的なアニメが始まるんだというワクワクとした期待感の高ぶりを再び思い出す事ができた、それだけで十分に満足だ。

 

 

 

『レディ・プレイヤー1』 映画 30年経っても変わってないな、おっさん

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さすがスピルバーグ。アトラクション映画としては過去最高にエキサイティングだ。

登場するキャラクターやら音楽について詳しくは、こちらのブログがすごいのでぜひ参照を。

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物語は、リアルとリアリティとヴァーチャルに関する王道で、展開も期待を裏切るものではない。

だから最後まで安心して鑑賞できる。

こんな普通のストーリーや類型的なキャラクターを、飽きさせる事なく、最後まで見せ切る演出力はさすがスピルバーグ監督だ。

鑑賞している間は、細部にまで溢れ次々と登場するるアニメやゲームを中心とした80年代ポッポカルチャーの引用に魅せられ続け、悲鳴をあげたくなるくらいの興奮の嵐だ。

でも残念ながらそれだけの映画でもある。

二時間強の時間をエキサイティングに過ごせる事だけでも十分に価値があるのは間違いない。

アベンジャーズのキャッチコピーではないが、最高のアトラクション・ムービーだ。

この映画に深いストーリーや整合性のある設定や、人や人生に関する何かや、心を突き刺すような感情の描写を求めるなんて、野暮な愚の骨頂だ。最初から最後まで娯楽として身を浸せば良い。

扱われるガジェットの数々に目を凝らし、隠されたキャラを探し出したり、シャイニングの再現性や拘りの細かさに感動しているだけで幸せな気分になれる。主人公たちがVRオアシスに現実逃避するように、日常の諸々を忘れ、血湧き肉躍る興奮に没頭するのが正しい楽しみ方だ。

 

映画の最後、オアシスの創設者ハリデーの少年時代の部屋のシーンでは、懐かしすぎて涙が出そうになった。スピルバーグ監督の『E.T.』の主人公たちの部屋や、同時代の映画『ウォー・ゲーム』などに登場したアメリカの子供達の部屋、俺たちがスクリーンを通して憧れた豊かなアメリカのおたくの子供の部屋そのもだったからだ。

SF映画やファンタジーTRPG、PCやゲーム機など、あらゆる好きな物が溢れた屋根裏部屋。

E.T.』の影響があまりにも強いかもしれないが、死ぬほど憧れた夢の部屋が、この年になってまた改めてスクリーンで見る事ができるなんて、本当に幸せだ。社会派の映画の傑作も多数ものしているが、頭の中の真ん中は少しも変わってないじゃないか、スピルバーグ

こんなおっさん、いや爺さんの作る映画はいつだって信頼できるし、傑作なのは間違いない。

『総統の子ら』  皆川 博子 本 読書メーター

総統の子ら

総統の子ら

 

 「正義」「平和」「自由」のために一体どれだけの血が流されたのか。これらの言葉を無邪気に信じる愚かさを私は、心の底から憎み嘲笑う。反する「悪」も含め、この世にそんな絶対的なものは存在しない。そうだと定義し強要する人間がいるだけだ。錦の旗の犠牲の上に立つ人の世は、腐臭に塗れた世界だ。戦争によって露になる人の醜悪、残虐、愚劣な様は人間の本質だ。私にも貴方にも刻まれている。そんな呪われた人間が一方で純粋に友や国、家族を想い犠牲的な意思を貫く崇高さが胸を打つ。しかし、それが同時に争いの動機になるのだから救いが無い。

 

▪︎もう一つの感想

ヒトラーナチスを絶対的な悪とする単純で暴力的な普通の戦後価値観に対する視点として、ドイツの若者たちの視点から第二次世界対戦・欧州戦争を描ききった傑作。ゲッペルスがプロパカンダの天才だとするのなら、富裕ユダヤ層も同様にプロパカンダの天才だ。ホロコーストはあったのか?の問いの答えは簡単だ。ドイツのアウシュビッツだけでなく、世界中全ての国が起こしあらゆる所にあったのだ。勝者の言葉だけが「真実」となっただけだ。そんな世界の中で、友や国、家族への想いのために全力で正々堂々と戦った若者たちの真摯な姿が深く胸を穿つ。

 

▪︎追記

著者のイメージから、この前に読んだ『薔薇密室』のような耽美的な作品だと勝手に思っていた。BL的な香りや要素もあるが、ストレートに戦争と青春を描いていて驚くと同時に、強く惹き付けられた。

『パシフィック・リム アップライジング』 映画 おたく第一世代のおやじ、これじゃない感に涙する

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前作の胸熱を期待して初日に鑑賞。

ロボット・バトル・ムービーとして、良くできてはいるけれど、残念ながら個人的にはのれなかった。

どんなアニメや特撮が好きかによって評価が大きく異なる映画だ。

おたく第一世代の俺には洗練されすぎていて、熱くなるポイントがなかった。

 

シン・ゴジラヤシオリ作戦エヴァ白い悪魔量産型の強襲、ナイフのようなスマートな機体、パトレーバー/マクロスっぽい顔やスタイル、ガメラのレギオンクラスター等など、イエガー関連の描写はエヴァが若干多いが、様々な作品からの引用も多く、気がつくとにやりとはさせられる。

でも再現がスマートなだけで、こちらの胸を打つような熱さが一切感じられない。

 

 

前作のダサさや、ぶかっこうさの根っこには、熱い思いが滾っていて観ていて胸が熱くなった。それが『パシフック・リム』の魅力の大きな要素の一つだった。

決めのポーズや、必殺技の叫びのダサ格好良い感じだ。

浪花節なストーリーも7〜80代っぽい王道の物語で、神風特攻にカタルシスを感じると言うあの頃のアニメ的だった。

今回の『アップライジング』は若者の成長の物語で、今時の学園ベースアニメなどではありふれているかもしれないが、映画としての物語の興奮を俺には与えてくれなかった。

ゲッターロボ、ヤマト、ガンダムゴジラガメラがおたくのきっかけだったのか、エヴァ、OOあたりから好きになったのか、それで受ける印象が大きく異なるなと思う。

監督のスティーヴン・S・デナイトは間違いなくエヴァが好きで典型的なアメリカ在住のアニメ・特撮おたくだろう。デル・ロトの極めつくしたマニアック心こそが特殊だったんだと改めて思わされる。

今のアニメ、特撮好きの10代、20代には、この映画はどう映っただろう。

まあ、どうでも良いが。

 

トランスフォーマー』の新作だと言われても頷いてしまう。昼の明るい光の中でのイェガーの戦いのCGなど前作以上にアップライジングされたクオリティは、素直に評価できるが、映画を観るってのは技術を観賞しに行くわけじゃないので、それだけでは映画としての魅力は感じられない。

 

なんだか、有名無名問わず映画ブログですでに書かれている事の繰り返しになってしまったが、それくらいしか言いようのない映画だったって事でご勘弁を。

『薔薇密室 』 皆川 博子 本 読書メーター

薔薇密室 (ハヤカワ文庫 JA ミ)

薔薇密室 (ハヤカワ文庫 JA ミ)

 

 背徳的な狂った研究者、退廃的な美、濃密な薔薇の香り、通底しているのはナチス第三帝国。小説が紡ぐ世界のなんと豊潤な事!薔薇と人体の融合。美しい劣等体として愛でられる奇形児たち。耽美と歪つな偏愛が美しく折り重なり、幻想と史実、倒錯と残虐が彩りを加え、儚くもあり強靭でもある物語を構築している。綺麗事をならべ、無邪気に笑わせたり泣かせたりするのが小説の役割ではないと、満足させてくれる一冊だ。耽美で背徳的な物語の結末は、快楽ともなるような破滅であって欲しかったと願うのは、あまりにも個人的な無い物ねだりだろうか。