「スイングガールズ」 映画 イグね、イグね

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今ではすっかり中堅の上野樹里貫地谷しほりたちの初々しさにニンマリしながら、バンドを始めるってテーマに最後までワクワクさせられっぱなしだった。

 

無為に日々を過ごしてた女子交際たちが、ひょんな事から楽器をはじめて、ビックバンドとしてホールの観客を沸かせる、て王道中の王道のストーリーだけど、ストーリーを追いかける映画じゃないので、ご都合主義っぽい部分や、雑な部分も気にならず改めて楽しめた。

 

去年からアルトサックスを習い始めたのも感想に大きく関係してるけど、楽器を鳴らす、皆で演奏をすることのワクワク感が端々から伝わってくる。

マウスピース咥えてはじめて音らしい音が出たときのあの感じとか、出なかった高音が決まった瞬間とか、バンドで演奏をしきった達成感とか、いちいち分かるわ、だよなとニヤけてしまう。

人が聴いたら下手くそな演奏でも、一曲演奏しきった時の達成感といったら、他に替えがないくらいのものだ。

 

何より演者たちが、3ヶ月程度の練習で吹き替えなしの演奏をやりきったのには感心する。最後の演奏会のそれぞれのソロ演奏なんて、編集の妙もあるけれど、演奏も演技もかなり決まってた。初心者が楽器演奏してるときに指使いやブレス以外の事に神経を使う、特に演技なんてするのは至難のわざなのに、それを感じさせず楽しさを伝えてくる彼女たちは、さすが女優だ。

実際に楽器を演奏しない人にも、何かを始めて、皆でワクワクしながら形にしていくような体験をスクリーンを通して再体験させてくれて、ダメだった連中がピタッと決めてくれるカタルシスの気持ち良さを味わせてくれる。

捻くれていないストレートな感覚だけに、下手な演出では決まらないところを、ニヤニヤ、ゲラゲラ笑わせながら、きちっとまとめ上げる監督の手腕、直球で娯楽映画を作る意思には、改めて凄いと思わされた。

撚ずに、媚びずに、直球で娯楽映画を撮れる邦画の監督って、ほんとに少ない。

 

 

 

スウィングガールズ スタンダード・エディション [DVD]

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「 殺人犯はそこにいる」 本 清水潔 読書メーター

 

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

 

誰もが読むべき一冊。書店員の熱い推薦のメッセージに包まれたタイトルだけが明らかな文庫Xの企画に感謝。書かれたメッセージに嘘はなかった。北関東連続誘拐殺人事件などの顛末を、調査報道のジャーナリストが自らの行動と調査結果としてまとめたノンフィクション。著者の報道するものとしての真摯な姿に素直に感動し、投げかける現実の醜さと怪しさに怒りを感じ、マスコミや巷のジャーナリストもどきの卑しさに反吐が出た。事件をめぐる事柄も目が離せないが、日本のマスコミの醜態と堕落、それを産んでいる官と視聴者の存在が強く心に刻まれた。

「皆、シンデレラがやりたい。」 舞台・根本宗子作、演出 下北沢本多劇場 こじらせアラフォー女に魅せられて

シンデレラって、なるもんじゃなくて、やるもんだったんだな。恐るべしアラフォー女子。

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自らの劇団の本公演ではなく、外部プロデュース公演。

根本宗子が劇団☆新感線の高田聖子、大人計画猫背椿、ナイロン100°Cの新谷真弓の三大看板女優を迎えて、アラフォー女三人のこじらせまくりな痛々しい世界を描く。

 

マイナーアイドルを追っかけしてるアラフォー女性三人を演じてる、高田さん、猫背さん、新谷さんの存在感が半端なかった。舞台の上で活き活きとリアルに、痛々しい大人の女を楽しそうに演じていた。

 

ストーリーが進む中で、やがて三人の間の見えないようにしてた溝があらわになり、物語がは思いもよらぬ展開をむかえる。

いつもの根本宗子だったら、最後のここで舞台ならではの大仕掛け、チャンバラ合戦や時空のジャンプなどで一気に物語を大転換させるのだが、

今回は違った。アラフォーこじらせ女子の日常の延長にある転換で、痛々しさを、カタルシスにまで昇華してみせた。

高田さんの演技もあって、あの瞬間痛いこじらせ女が、輝いてみえるんだから不思議だ。

 

高いテンションと、マシンガンのような台詞の応酬で、観客をぐいぐい引っ張っていき、痛さや愚かさを笑いで救いながら心にグサグサ突き刺さる台詞を投げつけてくる根本宗子らしい舞台だったが、今回はいつもとちがう外部のベテラン女優の三人がさらに作品を深化させ、こじらせ女の痛さ、それでもシンデレラがやりたいという哀しい女のサガを、突き抜けた先の輝きにしてしまう強さ。

最強の舞台だった。

 

 

次回は本公演らしいが、本公演でも外部プロデュースでも、小劇場でも大ホールでも、そこにあわせた力技の舞台をぶつけてくる根本宗子。未見のかたはぜひ一度舞台をご覧ください!

「鍵師ギドウ」 本 大門剛明 読書メーター

 

鍵師ギドウ (実業之日本社文庫)

鍵師ギドウ (実業之日本社文庫)

 

 難攻不落の錠前を解錠したのは誰だ?物理的な鍵だけでなく、人の心の閉ざされた部分も同時に解いていく天才鍵師の設定が面白かった。残念ながら文体が合わず?になる描写がいくつかあったり、人物の造形や谷中など地域への視点に新しさを感じられず、普通に面白かったで終わってしまった。東京の東側を中心に自転車で飛び回る天才鍵師ってのは面白いんだけどね。ハミルトンの「解錠師」とは違う、鍵をめぐる日本のミステリーを期待していただけにちょっと肩透かし。

 

下町を自転車で駆け抜ける鍵師って、昔フジテレビのドラマで、渡辺謙が「鍵師」シリーズってやってたみたいだった。テレビにありがちな人情オチなんだろうけど、観てみたいな。

「残夢の骸 満州国演義九」 本 船戸与一 読書メーター

 

残夢の骸 満州国演義九 (新潮文庫)

残夢の骸 満州国演義九 (新潮文庫)

 

 満州国興亡。読後に残ったのは、深い虚無と寂寥だ。敷島四兄弟と間垣が象徴する誰もが、歴史の流れには逆らえず、無力に堕ちていく。敗戦を迎えた四男にすら救いや希望が与えられない。長大な物語の影に流れている、明治維新以降の薩長を中心とした日本の在り方、為政者や軍人、市井の日本人の在り方への、静かに冷たい視線は今に通じるが、会津の復讐者すら取り込まれ無様に消えていく様を見せつけられれば、救いや希望をこの先に見出す事が難しい。自虐史観に陥らず、昭和前期を圧倒的な小説としてまとめこの世を去った著者に改めて感服する。

「虐殺器官」 映画 英語しゃべれなくて良かった〜

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Project Itohの大トリ、ついに公開。

傑作。大傑作。

制作会社自己破産の危機を乗り越えて、良く公開までこぎつけてくれた!

経緯につては、こちら

この作品が日の目をみなかったら、大きな損出になるところだった。

 

大傑作とは言ったが、誰にでも薦められる作品じゃないのも確かだ。

ついでに書くと、「映画を観る事」「映画を語る事」についても考えさせられた。

長くなりそうなのでそれは、また別な話としてこちらで。

この映画で得て感じるものは、誰もが体験を楽しめたり、カタルシスを得たりできるものではないからだ。

 

人は意識を持って自主的に行動していると思い込んでいるが実際には、先に言葉があり意識が生まれると言う事を、「虐殺器官」「虐殺の文法」と言う虚構をもって露わにする。

理性的であると同時に人は残虐であること。それはけっして理性でコントロールできるものではなく、自己生存を目的とした利他的行動と虐殺は、その本質においては同質なもので、対立する二元的なものではなく、人の根本にある生存のためのみにアプリオリに持つ器官=本能だと言う真実。

その上で自らが愛しいと思うものを守るために他者を虐殺の犠牲にする事。そうした不都合な事を意識せず見ない事で成立する熟しすぎた私たちの住む先進国の現実の姿。

見えない他者に対しての罪からそうした世界でも虐殺の本能を解放し世界を変えようとする主人公の最後の行動。

このスリリングで危険なヴィジョンを、高いクオリティのアニメーションで描ききった映画が面白くないわけないが、万人が楽しめるとは思えない。

 

原作の小説を読んだ時に、ああこれは「闇の奥」なんだなと思ったのを覚えている。

狂気の存在を追うために密林の奥に進む事で、同時に人の心の奥に踏み込んで行く主人公、その主人公が「狂気の人」の騙りに触れる事で、「理性」と「狂気」の意味や根拠が崩れ、キリスト教的な価値観と近代西洋的な二元論を基にした価値観を超えたものを読者に突きつけてくる。

現代のテクノロジーや最新のミリタリーガジェットを衣装として纏い、乾いた文体と覚めたユーモアと諦観に近い冷たい社会観で残酷で独特な世界を築きながら、「闇の奥」で提示されたテーマを現代にリブートしていると感じたのだ。

 

映画を観終えて、ストーリーの展開や構造は特に似ていたわけではないが、テーマはやはり「闇の奥」に連なるものだと再確認した。「闇の奥」へ進みその先にまで歩みを進めたものだ。

 

原作で印象的だった母のエピソードや、細かな展開を削除したのは、この作品のテーマを一本の映画としてまとめ上げるのに大きく貢献していると思う。

伊藤計畫の小説は、何かに代えられるものではないし、彼の文体で描かれる内面を饒舌に語る主人公は、とうてい映画で描く事はできない。小説で描かれたコアを映画として伝えるための方法としては見事で最適な構成だ。逆に原作の大ファンからしたら物足りない駄作に写るかもしれない。しかし、伊藤計畫が書いたミリタリーのガジェットや戦闘などが映像としてスクリーンで描かれる様子を観るだけでも十分価値がある。

 

物語で伊藤計畫が描いた刺激的なヴィジョンを、言葉と言うツールを使えない映像で見事に描ききったこの作品は、不都合な真実を顕にしスリリングで強烈な刺激を脳に突きつけてくる。残酷なシーンも多いが、欺瞞や上っ面だけの綺麗ごとの優しい理性に閉塞感や厭気を感じている人にはぜひ観てもらいたい映画だ。

 

 

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

 
闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

 

 

「南冥の雫 満州国演義八」 本 船戸与一 読書メーター

南冥の雫 満州国演義八 (新潮文庫)

南冥の雫 満州国演義八 (新潮文庫)

 

 歴史を弄ばす、満州国の興亡を通して昭和前半の日本を描いてきた作者の目は、常に冷徹で客観的だった。しかし、南洋やインパールでの皇軍将校や施政者達の無能、無脳、愚劣、卑劣な行いが延々と重なるこの巻では、東条、牟田口その他すべての日本人の卑劣な罪が、強く告発されていく。この時代の特別な人間が愚かだったのではなく、会社や組織の中で今も常に存在している変わらぬ現実を考えさせられる。無頼を気取り無聊の徒であろうとした浪漫も、活劇の結果ではなく、無策の犠牲として虫葬され無数の白骨の一つにしかならない哀しみが心に痛い。