『ぼくのキャノン』 池上永一

第二次世界大戦沖縄戦の際に、海辺の村に設置されたキヤノン砲を真ん中においた、沖縄ファンタジー。甘いファンタジーではない。シリアスな語り口ではないけれど、根には本土決戦の前に見捨てられた沖縄の悲劇がある。
戦争が終了して半世紀以上が経った今、物語としてあの戦争を語り継ごうとする作者の想いに満ちた寓話だ。悲惨な描写や内容にすり寄ることなく、沖縄に降り注ぐ強い日差しにも似た強い物語なっている。
悲劇と決意、強い意志、意志を継ぐ物。世代を超えて伝わっていく物。惨劇の陰に無力に死んでいった男のために、殺されていった人々のために全てを賭け働いて生きた老人たちの強さが、心に響く。そして老人たちの意志に触れ、自分逹の方法で新しい明日を作ろうとする少年逹の想いに涙を流す。
爽やかで心地良い日差しの中で、過ぎ去って行った過去、その過去から今日へと繋いでいった人々の想い、明日を作ろうとする意志の神話として愉しめる作品だ。
沖縄の海は、明るくて青い。脳天気な陽気さだけでなく、複雑で深く全てを含んでなお美しいんだな。久々に沖縄に行きたくなる。
俺の心の中に、キャノンは刻まれた。俺もキャノンの子になる。
おれのキャノンだ!

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