『打ち上げ花火、下から見るか?上から見るか?』 映画 シャフトの無駄使い

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普段はどんな映画でも良いところを見つけて、褒めるようにしている。

この映画も製作したシャフトの作画や演出は、映画として素晴らしいと思う。

オープニングからのタイトルバックの花火なんて、実写では表現不可能な美しさだ。

この映画はこの辺りしか褒める部分がない。私には合わなかった。

 

オリジナルのテレビドラマは、リアルタイムで観た。「世にも奇妙な物語」がヒットして二番煎じで企画された「Ifもしも」の中でこのドラマが放送された時の衝撃ったらなかった。

奥菜恵の少女でも大人でもない特別な一瞬の存在を切り取った映像は、10代だった男子には幻のようだった。恋に落ちない男子なんて想像できなかった。

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声変わり前の小学6年生の男子の夏休みの1日を、ノスタルジックにリリカルに、ありそうでないファンタジーとして描いた岩井俊二は天才映像作家だと思った。

 

あのドラマをリメイクする、しかもアニメで、となるのであれば、何をテーマに据えるか、それが問題だ。

少年の憧れと恋心の対象となる少しだけ先に大人になった美少女。

子供時代最後の夏休みの1日、それは恋心を知ると同時に、自分ではどうにもできない学校外の大人の世界を垣間見る瞬間。

くだらない事にムキになる楽しさと自分の気持ちを正直に語れない虚勢を感じる友情。

夏休みの夜忍び込むプール。

 

あげていけばきりがないが、こうした空気の組み合わせが、このドラマを記憶に強く残る作品にしている。

がこの映画は、中途半端にオリジナルを継承しつつ、オリジナルを改変した部分と水増した映画独自の部分が。ことごとくこの作品の根本と微妙にずれていた。

中学生ではなく高校生にしか見えないキャラ。

本当に夏休みなのか、暑い夏なのか伝わってこない空気。蝉がないてない夏休みはないよ。

現実から遠く離れていくファンタジー。

後付けされたタイムリープの方法。しかも物語都合で整合のとれていない設定。

肌を這う蟻ではなく、近づけば逃げるはずの赤とんぼ。

ジブリの二番煎じの海を走る電車。

声変わりした俳優と声優。などなど。

 

繊細な気持ちと空気を、繊細に描く事で奇跡のように成立していた世界が、まったくの不発になっている。

作画や背景、特殊効果が独自の美しさを持っているだけに、この繊細さが表現できなかった事は、あらためて残念だ。

タイムリープが『君の名は。』の二番煎じだとかの問題じゃない。繊細な男子の気持ちをそっと形にすべきところを、完全なパッッケージにしてしまったことが根本の問題だ。

脚本の大根仁は、ドラマが好きすぎたのだろう。『モテキ』の二話の聖地巡礼の回は抜群に面白かったのに、好きがまさって大きく裏切って自分のものにする事ができなかった。

なんでキスなんてさせるんだ??それは『打ち上げ花火〜』の世界じゃないだろ。

キスどころか、淡すぎて気づかないけど、でも間違いなく心に残る初恋こそが、夏の花火の夜の記憶じゃないか。

 

最後に映画オリジナルで気に入った事を話て終わろう。

不思議の玉が砕け散った瞬間、たくさんの時間線に存在した、またこれから存在するだろう様々なもしもがなずなと典道に降り注ぐシーンは、実写では表現できず、またシャフトのクオリティだからこそできた素敵なシーンだと思う。

この欠片の中でキスしてしまうのも、どうにもうなづけないが。

 

オリジナルドラマを知らず、初めてこの映画に触れた少年の感想を聞いてみたい。

あの夏休みの1日、奥菜恵に恋してしまったように、この作品のなずな永遠の美少女に恋を感じただろうか?

もと少年だった大人は、あの頃の気持ちを思い出す事ができただろうか?

 

追記:

観賞後ずっとわからないシーンがあった。

なずなが「いなくなった」と説明する父親の事だ。

子供を肩車しているカットと海に溺死体として浮かぶカット、その手元に不思議の玉が浮いているカットが続く。

なぜ父親がなくなったのかの説明がまったくされない。

唐突な想像だけ書くが、なずなの父も典道となずなのようにもしもを繰り返し駆け落ちを成功させたのではないか。

その結果なずなを子供として授かることができたが、もしもの繰り返しの中で海を命を落としてしまったのどはないか。

となると典道が、なずなと海で沢山のもしもに囲まれた先には死が待っていることになり、エンディングの不在は、典道がいなくなってしまった事に繋がって行く。

まああくまでも個人的な妄想だ。仮にそうだとしても、それならば描写が少なすぎるし、抱いた感想が覆るわけでもないけど。